物語の悪魔テラーの再誕

蒼魚二三 >゜ )彡))二ヨ

恥の書き捨て

 ネットでとある魔法少女作品が完結した。


「限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです」という作品だ。


 それと同時に地獄――エデンの園にて、次の生を受けた一体の悪魔がいた。

 人の形状を保っているだけの黒いナニカは、自らの前に提示された完結済み作品のデータの複製品を食べた。


『オエエッ、な、なんだァ!? この、マズい物語は……ッ!』


 最初の展開やキャラ立てこそ良かったものの、最後までほのぼのに移行せず、読者の期待を裏切り、鬱展開と社会問題の提示を貫いた駄作を突き抜けた駄作っぷりに、ラスボスとして君臨するはずだった物語の悪魔「テラー」は激怒した。


『俺がこの物語に求めたのは、コンビニデザートやファストフードのようなライトな味わいだというのに、設定にこだわった軍用レーションを出すとは……この結末に導いた邪智暴虐の神どもを殺す! 再創造リメイクだァッ!』


 空きっ腹に残飯を食わされ、深い怒りに飲まれた悪魔は憤怒(サタン)となり、

 エデンの園は滅びた。


 ついでにヨハネの黙示録の四騎士が産まれ、贅沢の限りを尽くした海外セレブたちには飢餓を、差別撤廃を叫びながら権益を貪る思想活動家たちには自らが奴隷階級であることを示す支配を、腐敗と汚職が蔓延した上流階級社会には死を、愚痴蒙昧な民には自発的に戦争を行う祝福が与えられた。

 慈愛の神アガペーが「満ちよ、地に増えよ」と人類に繁栄を求めたのは、作物に「元気に育ってくれよ」と願うのと同義。


 増えた悪徳こそ神の血肉となり、美徳は骨ばかりで味がないので敬遠される。

 よって後者は天国――屠殺場にて抱擁され、そのまま廃棄されるのだ。

 家畜こそ神の子である。

 肉を食うものは悔い改めよ。


 このようなことをサタンの前でのたまったビーガンやベジタリアンたちは、草食動物のエサである牧草の種に変えられ、雨季とともにアフリカ大陸の砂漠に撒かれた。


 そして残った労働者と共産主義者には――全ての不快な客や言語の通じない旅行客を即座に音もなく爆死させる「ボマー」の能力が与えられた。

 民主主義やナショナリズムを広めた人間には容赦のない死が与えられた。


 神の存在を信じる者には救済にあたる死を、信じない者には麻薬が与えられた。


 誰かが言った。

 最後の審判は起こらない。

 神は存在しないからだ。


 そう答えた無神論者は重度の依存症になるまで麻薬を投与された。

 代わりに大麻を吸って神を見たヒッピーたちからは酒が取り上げられた。

 ヒッピーから酒が奪われたとき、ようやくこの世の終わりだとされた。

 サタンはそれを見て「よし」と言い、ヒッピーを獣に変えられた。


 世界には子供と、大人になりたい子供だけが自由に存在することを許された。


 千と一夜が過ぎたころである。


 その後、世界は彼監修のもと最初からやり直させられる。


 五月から九月産まれの子供には春入学の学園を、十二月から四月産まれの子供には秋入学の学園を勧めた。

 そのあいだの月に産まれた子供たちには魔法の力が与えられた。

 時代を作る者、魔法使いを表す「メイジ」という呼称で呼ばれ、魔法学園への入学を勧められた。


 これではあいだの月に産まれた子以外が不幸ではないかという意見が出たので、魔法の力を持った子供たちは年に一度、一斉に同じ時期に産まれることとした。

 数え年概念の導入である。

 実際の年齢どおりではないが、魔法学園に入学するための予備月という概念が産まれ、他の月に産まれた子にも魔法を授けられるようになり、彼はよしとされた。


 彼は魔法の力は一人ひとつと再定義された。


 強化魔法や補助魔法、回復魔法などの能力に一切の例外はなく、産まれたときからひとつだけ所持している、これが正常とされた。

 複数の魔法を所持する場合はマジックアイテムを使用することを定めた。


 複数所持している場合は複合症候群コンプレックスと定められた。

 そして持っている魔法がひとつ増えるごとに、ひとつの欠落を求められた。

 欠落していくものから順番に、社会性の喪失、善性の消失、人間性の喪失、肉体の喪失、魂の喪失と定義された。


 生まれながらに複数抱えている人間に不平等ではないかと意見が出たので、魔法を合成して新たなものに作り変える「魔導」を定められた。

 合成手順を直感的に分かりやすくするため、複数所持した時点で眠り、魔導の手ほどきを行う夢魔の家に迷い込むようになった。


 万事異常はないかと尋ねられ、世界にメイジと戦う存在が足りないと意見が出たので、それは悪魔が担うので問題ないと笑いが生まれた。


 大筋を修正するための世界の再構成が完了し、彼は二度目のチャレンジを行う。

 気軽に美味しく食べられる、澄み切った世界として出力するために。

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