第3話 Mitbewohner und Insekten(同居人と虫)

「あー!よく来てくれたねぇ!!」と、我が母が思いっきり抱きしめる。


「...痛い」


「よろしくね!私のことはお母さんって呼んでいいからね!」


「...いえ。ちゃんと長嶺おばさんと言います」


「いやーん!つれなーい!」


 そんなやり取りを横目に、そのまま自分の部屋に篭ろうとすると、「ちょっと、あんた!何部屋に篭ろうとしてるのよ!こんな可愛い女の子とこれから一緒に住むんだから、ちゃんと親睦を深めなさい!親睦を!」


「...親睦って...。いや、別にそういうのはいいよ」


「何遠慮してんのよ!そもそもあんたに拒否権ないから!着替えたら早く下にきなさいよ!」


「...」


 勘弁してくれよ。と、思いながらとりあえず着替えを済ませて、リビングに戻ると、楽しそうに話す母と少し疲れた様子のエミーリエ。


 解放させてあげたいのは山々だが、俺が何を言ったところで、母は恐らく納得はしないだろう。


「色々とすまんな」


「...別に。お世話になる以上はある程度のコミュニケーションは必要だと思ってるし」


「...そっか」


 それからも母にだる絡みされるエミーリエを何とか庇いながら、1時間ほどでようやく解放される。


「エミーちゃんはお姉ちゃんが使ってた部屋使っていいから!宗!案内してあげなさい!」


「...はい」


 そのまま母さんに言われるがまま、元姉の部屋に案内をする。


「...お姉さん居たんだ」


「まぁな。大学進学とともに一人暮らしを始めてな。父さんはあんまり家にいないし、俺は母さんとあんま話しないし、寂しいっていうのもあるのかもな」と、部屋まで案内し立ち去ろうとするが、会話を続けるエミーリエ。


「...そう」


「そういや、なんで日本が好きなんだ?日本に来たことはあるのか?」


「アニメが好きだから。それに小さい頃に一度だけ日本に来たことがあって...。良いところだったから。忘れられなくてね」


「...そっか。まぁ、行きたい場所とかあれば俺でよければ案内するよ。あんま遠くない場所だったらだけど」


「そう。分かった。それじゃあ」と、こちらを見ることなく部屋に入っていくのだった。


 あんな可愛い子と一つ屋根の下...か。

まぁ、俺がもう少し自信家だったらもしかしたらワンチャン...いや、ノーチャンか。


 そんなことを思いながら、自分の部屋に戻りのんびりとしていると、ものすごい勢いで部屋をノックされる。


 また母さんかと思って扉を開けると、そこにはエミーリエが立っていた。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093081726734515


「...ん?どした?」


「む、虫が...居たの。ちっちゃい...虫が...」と、足をモゾモゾさせながらそんなことを言う。


「...虫?...おう。分かった」と、そのまま後をついていき、部屋に入り先ほど居た場所を調べると小さい虫が確かに居た。


 ティッシュを使ってささっと処理する。


「虫苦手なの?」


「得意な女子なんているの?」


「...まぁ、母さんとかは割と得意かも」


「...そう」


「それじゃあ、俺は戻るぞ」


「待って!...まだ居るかもしれないから。ちょっとここに居て」


「...えー」と、心の声がダダ漏れする。


「いいじゃない。どうせ部屋に居てもゴロゴロしてるだけでしょ」


「そうだけど...。まぁ、ちょっとゴロゴロして特に見当たらなかったら帰るから」


 仕方ないといった感じで頷くエミーリエ。


 それからは特に虫は見当たらなかったため、そのまま部屋に戻るのであった。


 こうして、俺と彼女の生活が始まるのであった。

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