24. 百年目の因縁
騎士たちの輪を掻き分けるようにザカリーが姿を現した。その顔には勝ち誇った笑みが浮かんでいる。
「フハハハハ! 狼藉ものが、覚悟しろ!」
ザカリーの声が、広場に響き渡る。
賢者は、まるで退屈そうに欠伸をするかのように口を開いた。
「おい小僧……。ワシの顔を忘れたんか? ん?」
その言葉には、深い知恵と皮肉が込められていた。
「こ、小僧だと!? お前なんか知ら……、え……?」
ザカリーの目が賢者の目を見つめた瞬間、顔から血の気が引いていく。まるで幽霊でも見たかのようにすら見えた。
騎士団長が、声を震わせながら言葉を絞り出した。
「あなた様は、ま、まさか魔塔主……様……?」
その声には、畏怖と驚きが混ざり合っていた。
賢者は、まるで舞台の幕が上がったかのように姿勢を正し、声高らかに宣言した。
「いかにも! 我はエルダー・ノア! 前魔塔主にして【王国の叡智】じゃ! 頭が高い!!」
その声は、雷鳴のように広場中に響き渡った。
ひぃぃぃぃ……。うわぁぁぁ……。
騎士たちは、雷に打たれたかのように一斉に動いた。慌てて胸に手を当て、深々とこうべを垂れる。
ザカリーは、歯を食いしばりながら言葉を絞り出した。
「くっ! な、なんで賢者……さまが?」
その声には、怒りと恐れが入り混じっていた。
賢者は、まるで大樹が若木を見下ろすかのように、威厳に満ちた声で語り始めた。
「ここにおるリリー一家は我の友人であり、友人を不当に邪険に扱ったお前の罪は実に許しがたい!!」
「え? いや、しかし……」
ザカリーの声が、力なく小さくなっていく。
賢者は、最後の一撃を放つかのように言葉を続けた。
「そなたの父、ブラックソーン殿にも後できつく言っておく! 覚悟しておけ!」
その言葉は、まるで運命の宣告のように重く響いた。
「くぅぅぅぅ……」
ザカリーの肩が、ガックリと落ちていく。その姿は、つい先ほどまでの尊大な態度が嘘のようだった。
陽光がまぶしく照りつける中、広場は奇妙な静寂に包まれる。
そんな中、騎士団長が意を決して口を開く。
「恐れながら申し上げます。最初からおっしゃっていただければこんな大ごとにはならなかったかと……」
「何言っとる。そんなのつまらんじゃないか。カッカッカ!」
賢者は楽しそうに笑い、騎士たちはお互い顔を見合わせてしかめながら小首をかしげる。
リリー一家とゼロは、まるで夢の中にいるかのように、この劇的な展開を見つめていた。賢者の姿は、まるで伝説の英雄のように輝いて見えたのだ。
◇
その時、村のあちこちから不穏な衝撃音が次々と上がり始めた。まるで
「な、なんだ……?」「一体これは……?」
どよめく騎士たちの声が、不安に震えている。彼らの鎧が、恐怖に身を震わせるかのように軋んだ。
「ただごとでは……なさそうじゃな。おい、ゼロ! 見てこい!」
賢者は顔を曇らせ、急いでゼロをつかむと上空に放り投げた。その表情には、長年の経験が感じ取った深刻な危機感が
「ま、魔物だ! それもたくさん。森のあちこちから襲ってきてる!」
ゼロは声を震わせながら叫んだ。その声には、恐怖と共に、どこか自責の念が混じっている。まるで、この事態を予見できなかった己の無力さを嘆いているかのようだ。
その言葉を聞いた瞬間、広場は混乱の渦に巻き込まれた。
「た、大変だ! 逃げろーー!」
ザカリーは悲鳴のような声を上げ、騎士たちも我先にと逃げ始める。彼らの姿は、先ほどまでの威厳ある騎士の面影もない。
「馬鹿もん! 領地を預かる者として逃げるとは何事じゃ!」
賢者は怒りに震えながら叱り飛ばすが、ザカリーはもはや聞く耳を持たず、ただ怯えたまま走り去ってしまった。その背中には、自分のことしか考えられない卑小さが見え隠れする。
「くぅぅぅぅ……」
ゼロは苦悩に満ちた表情で呟く。ここまで広範に村に入り込まれていては、もう駆逐は難しい。魔王は周到に森に魔物たちを潜ませ、今回の騒動の隙をついて侵攻させてきたのだろう。湖に半魚人がたくさんいた時点で気づくべきだったと、ゼロは後悔の念に駆られた。その小さな体には、重すぎる責任感がのしかかっている。
賢者は一瞬の沈黙の後、決意に満ちた声で言った。
「止むを得ん! 村は一旦諦めて、我々だけでも村人の避難の時間を稼ごう! みんなは騎士たちの方向へ逃げるんじゃ!」
そう言うと、賢者は広場の脇に建っていた物見やぐらに颯爽と登っていった。その姿は、まるで若き日の英雄のようだった。
ゼロは賢者の言葉に応えるように、分身を操って上空から村に押し寄せてくる魔物たちに赤い閃光を次々と浴びせていく。屈強な魔物たちも閃光を浴びると爆発して吹っ飛んでいく。その光景は、まるで赤い流星群のようだった。
しかし、多勢に無勢。百匹倒している間に千匹が押し寄せてくる状況にゼロは心が折れそうになる。その小さな身体には、疲労と絶望の色が混じり始めていた。
賢者は物見やぐらから戦況を見定めた。その目は鋭く、老齢な冷静さを湛えている。
そして、はるかかなた遠くの方の空に、ゆったりと黒龍が羽ばたいているのを見つけだす。不倶戴天の敵、魔王の姿を捉えたのだった。
「馬鹿め! ここで会ったが百年目じゃぁ!」
賢者はニヤリと笑った。その笑みには、かつての宿敵との再会を心待ちにしていたかのような昂揚感が溢れ、その目には、闘志の炎が宿っていた。
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