16. 新たなる冒険
パーティーは急遽お開きとなり、庭に残されたのはリリーの家族だけ――――。
両親は心配そうな顔でリリーを見つめ、これからどうすべきか、言葉を失っているようだった。その表情には、娘への愛情と、未来への不安が交錯している。
「リリー、本当にザカリー様と……?」
父親が震える声で尋ねる。その声には、現実を受け入れたくない気持ちが滲んでいる。
「うん、でも大丈夫だよ! ゼロが守ってくれたから」
リリーは明るく答えた。
「ねえ、ゼロ。あの時のゼロ、かっこよかったよ!」
リリーはまだ興奮冷めやらぬ様子で、ゼロの頭をなでながら今日の冒険を楽しそうに振り返る。
ピィッ!
リリーの無邪気な笑顔と、大人たちの深刻な表情が、不思議なコントラストを作り出していた。
ゼロはそんな様子を見つめながら、やはりザカリーには反抗しない方が良かったのかと思い悩む。
とはいえ、フクを、リリーたちをバカにするような奴にはお灸をすえざるを得ない。自分のやったことは正しかったのだ。
しかし――――。
ゼロは不吉な予感にくちばしをキュッと結んで大きなため息をついた。
そんな様子をジッと見つめていた母親は、ゼロを捕まえると優しく腕に抱きしめる。
「ねぇゼロ……。あなた一体何者なの?」
母親は小さな声で尋ねた。
ゼロはただピィッと鳴いて、首をかしげる。その仕草は、愛らしいペットそのものだった。
母親はふぅとため息をつく。
「まあ、いいわ。あなたがリリーを守ってくれたことは分かったわ。ありがとう」
母親はゼロの頭を優しく撫でた。その手には感謝と愛情が込められている。
ピィッ!
ゼロは小さく鳴くと、これから来るであろう困難に立ち向かう覚悟を決めた。
◇
その頃、別荘でザカリーはすりむけたひざを父親に見せ、怒りに震える声で訴えかけた。
「リリーとあの奇妙な生き物は不敬罪です! 罰を与えなければ!」
「おぉ、この可愛いわが子を傷つけた者はムチ打ちにせねば! 平民のくせに許しがたい!」
「パパ! ありがとう!」
ザカリーはニヤリとほくそ笑んだ。
領主は早速リリーとゼロの捕獲を騎士たちに命じた。
◇
翌日、さんさんと輝く太陽が畑を元気に包み込む中、リリーの家族は日課の農作業に勤しんでいた。
父親が
「ゼロ、頑張ってるわね」
リリーが微笑みかける。
ピィ! とゼロが嬉しそうに鳴き、さらに熱心に雑草を抜く姿に、父親も思わず笑みをこぼした。
しかし、その平穏は長くは続かなかった。遠くから、ドドドと不吉な地響きが近づいてきたのだ。
ピィ?
不審に思ったゼロが真っ先に顔を上げると、遠くに黒い影が見えた。それは、武装した騎士たちが馬に乗って大勢でやってくる姿だった。
「な、何事……?」
リリーの父親が困惑の表情を浮かべる中、やってきた先頭の騎士が雷のような声で叫んだ。
「リリーという少女はいるか? いたら出せ!」
その瞬間、リリーの顔から血の気が引いた。
「わ、わたし……?」
彼らの目的は、リリーとゼロの捕縛だったのだ。
突然の出来事に、リリーは慌てふためき、逃げようとする。しかし、後ろを振り返ると、そこにはザカリーとその護衛たちが
逃げ場を失ったリリー。
騎士たちは、大切に育てた野菜を
リリーの父親は必死に娘をかばおうとするが、騎馬を前にしては無力だった。
「下がれ、平民! 領主様のご命令だ!」
騎士が父親を突き飛ばす。
「ああっ! パパ!」
騎馬に翻弄される父親を見て青ざめるリリー。
ピィィィィ! ゼロの鳴き声が、怒りと決意に満ちて響く。
絶体絶命のその時、ゼロが決断を下す。小さな体でリリーのチュニックの腰ひもを足でガシッと捕まえると、突如として空高く飛び上がったのだ。
真っ青な青空に向かって一直線に高度を上げていくゼロとリリー――――。
「と、飛んだ!?」「バカな!」「な、なんという……」
地上にいる全員が唖然とする中、ゼロはリリーを連れて悠然と騎士たちの頭上を軽々と飛び越えていく。その軽やかな姿は、まるで伝説の
「うわぁぁっ!」
どんどん小さくなっていく村の景色にリリーは驚きを隠せない。空を飛んだことなんて生まれて初めてなのである。
ザカリーは怒りに顔を歪めた。
「追え! あいつらを追え!」
「い、いや、しかし……」
騎士たちは困惑の表情を浮かべる。
「何をやってる! 逃げちゃうじゃないかぁ!!」
ザカリーの叫び声が響く中、ゼロはお構いなしに森の方へと飛んでいく。
騎士たちが渋い顔を見合わせる中、二人の姿は次第に小さくなり、やがて深い森の彼方に消えていった。
残された父親は、まだ信じられない思いで空を見上げている。
「リリー……気をつけて」
父親は小さくつぶやき、手を組んで祈った。
一方、ザカリーの顔には屈辱と怒りの色が浮かび、地団太を踏む。
「くそっ! 絶対に捕まえてやる!」
しかし、その怒号も空しく、リリーとゼロの姿はもう見えない。二人の新たな冒険が、いきなり始まってしまったのだ。
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