15. 大漁パーティ

「ただいまー! 見て見て~!!」


 リリー、ニナ、そしてゼロが大量の魚が入ったバスケットを抱えて帰宅すると、家族は驚きと喜びの声を上げた。魚のうろこが傾いてきた太陽にキラキラ輝き、まるで宝石のように見える。


「な、なんだこりゃぁ!!」「す、すごいわ……」


 父親は目を丸くし、母親は手を叩いて喜んだ。その表情には、驚きと誇らしさが入り混じっている。幼い親戚のトムは興奮のあまり、庭を駆け回って騒ぎ立てた。


「すごい! すごーい! きゃははは!」


 トムの笑い声が、村の空気を明るく彩る。


「いやぁ、リリー。お前は素晴らしい娘だ……」


 父親が誇らしげに娘の頭を撫でた。その手には、娘への深い愛情が込められている。


「えへへへ……」


 リリーはにんまりと幸せそうに笑った。頬がポッと赤く染まる。


「いやぁ、これは見事なトラウトねぇ」


 母親は目を輝かせながら、次々とバスケットの中身を確認していく。


 その歓声を聞きつけ、近所の人々も次々と集まってきた。


「うわぁ、これはすごい!」「立派ねぇ……」


 みんなの目が驚きと喜びで輝いている。その瞳には、村全体の喜びが映し出されているようだ。


「これは祝わないと!」


 隣に住むおじさんが声を上げると、


「賛成! 賛成!」「準備するわ!」


 と、みんな目をキラキラと輝かせた。その瞬間、庭は祝祭の場へと一変する。


 夕暮れ空の下、大漁を祝う即席のパーティー――――。


 庭には大きな七輪が出され、魚は様々な調理法で振る舞われていく。火の粉が舞い、煙が立ち上る様子は、まるで魔法のよう。


 香り高いアクアパッツァや、炭火で豪快に焼かれた魚の香ばしい匂いが辺りに漂った。その香りは、人々の心を温かく包み込む。


「うわぁ、おいしそう!」「すごぉぉい!」


 リリーたちが目を輝かせる。


 大人たちはワインを開け、子どもたちにはジュースが配られる、笑顔と歓声で大盛り上がりである。グラスが触れ合う音が、夜の訪れを告げる。


「乾杯! リリーたちの大漁を祝して!」


 父親が声高らかにグラスを掲げる。その声には、娘への誇りと、村への愛が込められている。


「乾杯!」「乾杯!」「カンパーイ!」「かんぱい!」


 みんなの声が夕暮れの空に響きわたった。その瞬間、村全体が一つになったかのよう。


 宴もたけなわになったころ、父親が上機嫌な顔でリリーに尋ねた。頬を赤らめ、目尻には笑みが浮かんでいる。


「そういえば、どこのポイントでこんなに釣れたのか教えてよ。パパも釣りたいんだ」


 近所の人たちも興味津々でリリーに耳を傾ける。みんなの目が、一斉にリリーに向けられる。


「半魚人の群れをドカーン! って誰かが叩いたら、プカプカと浮いてきたの」


 その意味不明な言葉に、宴の場は一瞬にして静まり返る。


「は、半魚人……? え? ま、魔物……?」


「そうよ? なんかゴツくて気持ち悪い奴」


 リリーはニコニコしながら答えた。その表情には、少しも嘘や冗談の色はない。


 大人たちは困惑した表情を浮かべ、お互いの顔を見合った。


「え、えっと……何かの間違いじゃないのかい? 半魚人だなんて……」


 隣家のおじさんが恐る恐る尋ねたが、リリーはキョトンとして間違いないと答え、ニナも「間違いないわ」と頷いた。


 とても嘘や冗談を言っているような感じでもなく、周囲の困惑はさらに深まる。空気が重く、張り詰めたものになった。


 母親は何か感じ取ったように、ゼロに向かって優しく問いかけた。


 「ねぇ、ゼロ? あなた、何かしたの?」


 しかし、ゼロは首を傾げ、何も知らないふりをする。


 ピィ?


 その仕草は、子供が何かを隠しているかのようでひどく怪しげだった。


 パタパタっと飛んでリリーの後ろに隠れるように身を寄せるゼロを見て、母親は小さく溜息をつく。その溜息には、これから起こるかもしれない困難への予感が込められていた。


 そして、リリーが領主の息子ザカリーとのトラブルについて話し始め、深刻度がグッと増してくる。


「ザカリーさまがフクを馬鹿にしたのよ!」


 リリーはこぶしをブンブンと振りながら熱弁を振るう。


 魔道銃を向けられたこと、そしてゼロが魔道銃で撃たれたけど無事で、逆にザカリーが逃げ出したことを聞いた途端、大人たちの顔から血の気が引いていった。


「ちょ、ちょっと待て……」


 父親は頭を抱えて絶句する。その表情には、これから起こるかもしれない災難への恐れが浮かんでいる。


 突如として宴の雰囲気は一変し、人々は慌ただしく立ち去り始めた。まるで嵐が近づいてくるのを感じたかのよう。


「もう遅いから」「明日も早いし」そう言いながら、次々と帰っていく。その足取りには、恐怖に駆られている様子が見て取れる。


 一緒にいた子どもたちは、不思議そうな顔で両親に連れられて去っていった。

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