13. 禁断の漁
風光明媚な湖畔で、リリーたちは必死で竿を引く。小さな体に力を込め、歯を食いしばる姿は、まるで小さな漁師のようだ。その瞳には決意と期待が交錯している。
しかし次の瞬間、とんでもない光景が展開した――――。
ザバッと水中から巨大な影が現れると、一気にトラウトをさらっていったのだ。
大きな水柱があがり、みんなしりもちをつく。
「きゃあっ!」「ひぃ!」ピィッ!
悲鳴が湖に響き渡る。
いきなりの怪物の襲撃にリリーは顔面蒼白になり、凍り付いた。あっさりと釣り糸を引きちぎられ、仕掛けごと立派なトラウトを奪われてしまったのだ。
ピィィィィィ!
ゼロは怒りに燃えて一気に飛び立った。
リリーの獲物を横取りする奴を許すわけにはいかない――――。決意がゼロの瞳に燃え上がる。
上空から見ると、怪物の姿が水面下に揺れていた。
ゼロはすかさず翼を打ち振るい、棘を射出して水中の影を攻撃する。棘は光の矢のように水面を切り裂いていく。
すると、今度は怪物がものすごい勢いで水面から跳び上がり、空中のゼロに襲いかかる――――。
鋭い牙と鱗に覆われた体を、陽の光に不気味に輝かせるその姿は半魚人だった。半魚人は水辺で人間を襲う危険な魔物で、川や海ではよく被害の報告がされている悪夢そのものである。
「あぁっ! ゼロ!!」
リリーの悲鳴が響く中、半魚人はゼロの下半身に喰らいつき、強力なあごを左右に激しく振って喰いちぎった――――。
恐怖で凍りついたリリーの目に、ゼロの体が分断される様子が焼き付く。
「いやぁぁぁ!」
リリーの悲鳴が響き渡った。
しかし、驚くべきことに、ちぎれた下半身は砂のように崩れ、半魚人の口からサラサラとゼロの上半身の方へと舞い上がっていくではないか。
ゼロは瞬く間に元の姿に戻っていく。その光景は、まるで魔法のようだった。
リリーの目に映る光景は、恐怖から疑問へと変わっていく。
「え……?」
リリーは眉をひそめ、首をかしげる。
ニナも驚きのあまり言葉を失っていた。二人の少女の目の前で、信じられない光景が繰り広げられている。
その間にも事態は急速に悪化する。湖中から次々と半魚人が現れ、二人を目指してバシャバシャと泳いで迫ってきたのだ。その数、十を超えていた。それぞれが不気味な形相で、巨大な魚のような目をぎらつかせ、鋭い爪と牙をむき出しにしている。風光明媚な湖は、いきなり地獄絵図のようになってしまった。
(なぜこんなところに魔物がたくさん!?)
ゼロは焦ったが、こんなこともあろうかと湖畔に待機させていた分身を起動させる。
漆黒の闇の姿をした小人が森の中から跳び上がると、真紅の目から閃光を次々と放った――――。
ズン! ズン! ズン!
次々と立ち上る巨大な水柱――――。
「キャァァァ!」「うひぃぃ!」
激しい爆発の連続に、豪雨のように降り注ぐ水しぶき。二人は頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。
ゼロの閃光の威力はすさまじく、半魚人は大爆発を起こしながら次々と湖面に消えていった。
やがて、静寂が戻ってくる――――。
「す、すごい……」「はわわわ……」
一体何が起こっているのか全く分からないが、そのすさまじいまでの破壊力にリリーとニナは唖然とする。二人はもはや目の前で起こっている出来事が現実なのか、夢なのか分からなくなってきた。
ピィィィィ!
ペンギンのゼロは勝利の雄たけびを上げると、湖の上空を一周して、残党がいないか確認していく――――。
すると、爆発の衝撃で魚が気絶し、次々とプカプカと白いお腹を湖面に浮かべ始めた。
「うわっ!」「さ、魚が……」
ピィッ!!
期せずしてやってきたいきなりの大漁のチャンス。ゼロはバスケットをくわえると、湖面すれすれを飛びながら、大きなトラウトを中心に次々と回収していった。
「わぁ! すごいすごーい!!」「大漁だぁ!!」
二人の少女の顔には笑顔が広がった。恐怖の記憶が、次第に興奮と喜びに塗り替えられていく。
ピィピィピィィィィィ!
ゼロは何往復もしながらトラウトを回収していった。
果たして二人のバスケットは、持ちきれないくらいのトラウトでいっぱいとなる。
「やったぁ!」「みんなのおうちにも配ろう!」ピッピッピィィィ!
思いがけない大漁に、三人は歓喜に包まれる。
こんな立派なトラウトはなかなか食べられないのだ。
「早く持って帰らなきゃ!」「きっとみんなびっくりするわ!」ピィィ!
リリーはその美味しそうな立派なトラウトをうっとりと見ながら、パパやママの驚く顔を想像してニッコリと笑った。
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