どこかのいつかの魔女の話

はるむら さき


何時の時代か今か未来か。

これは短いお伽話で、私にとってはホントの話。


樹木を自由に操り、美しい花を咲かすことの出来る魔法を使えるとても長生きな魔女がいた。

ひとりで大きな琥珀で出来た屋敷に住んで、魔女だというのに、魔法も使わず自分のその手でレースを編んだり、野菜をたっぷり使ったスープを作ったり。

天気の良い日は、ホウキで空を飛ぶこともなく、その二本の脚でよたよたしながら、散歩して、近所の人とお話ししたり、そんな日々をおくってた。


けれども、ある日。

九百五十歳と二十三日めの満月の日。

魔女は急に息をひきとった。

どこからともなく夜に紛れて悪魔が現れ、その心臓を魂を持っていってしまったのだ。

魔女の使い魔に知らせをもらった弟子たちが、急いでホウキに乗って飛んでいったけれど、命の瀬戸際、私たちのその声が、魔女に届いたどうかはわからない。


その永い永い生涯の最後の最後の最後まで、魔女がしあわせだったかは分からないが、魔女が死んだその夜に、日照り続きの小さな村に、たくさんの雨が降りそそいだ。


次に雨があがる時には、うなだれていた樹や花も、きっとまっすぐ枝葉を空に向けるだろう。



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どこかのいつかの魔女の話 はるむら さき @haru61a39

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