第58話 閑話 側室を娶って


 フォルカ・グレス・ガスティークがクイトゥネン家の姉妹を側室に娶った。二人は胸がなかった。

 その話はロフリク王国内で、じわじわ広がっていった。




 王都の民家で、商人二人が話をしていた。


「フォルカ様、胸のない女性二人を側室にだってな……」


「そうらしいな……」


 彼らはフォルカとリスティが結婚したと聞いたときには、同情しつつも、それを話のネタにして笑いながら酒を飲んでいた。だが、今回は少し暗い。流石に不憫というのが素直な感想だった。


「俺さ、フォルカ様がリスティ様とご結婚と聞いたときにはさ、災難だけど側室には爆乳貰えるのだろうって思ってたよ」


「俺もだ……少し酷いよな」


「少しじゃないだろ」


 言われた男は「確かに」と頷く。

 結婚の経緯は概ね正確に伝わっていた。即ち、大魔法使いの血を繋ぎたいクイトゥネンが申し入れ、嘗ての借りを返すべくガスティークが応じたと。


「借りって200年前とか何だろ? そんな話で、酷いだろ」


 彼は、先祖の負債を負わされた哀れな青年に大きく同情していた。


「その『借り』というのも、領民を飢えさせまいと食料確保に奔走したときのものだしな。まぁ、大魔法使いの血を継いで、国を守るって意味も大きいらしいが……」


「国を守るか。ポメイスに鉱山取られてたら、俺も野垂れ死にしてたかもしれないんだよなぁ……」


 彼の商売は鉱石に関連していた。鉱山がなければ別の仕事に切り替えなくてはならないが、そう上手くいくものではない。

 鉱山防衛でフォルカが活躍したのは彼も知っていた。


「フォルカ様に、良いことがあると良いな……」


「そうだな」


 二人の目は少し潤んでいた。




 王都貴族街のとある子爵邸、テーブルを囲み、貴族の男性3人が話をしていた。皆年齢的には中年で、既婚者で子供がいた。


「しかし、ガスティーク侯爵は随分と非情な決断をなさる。貴族としては正しいのだろうが……」


 言いながら、彼は自分の息子の顔を思い浮かべる。もし仮に似たような立場に置かれたとして、ガスティーク侯爵と同じ決断ができるか? 自分には無理だと男は思った。


「ガスティーク侯爵は王家への忠義が殊更厚い方だ。今回の結婚は過去の『借り』よりも国防を考えてのことだろう。大昔の食料支援に対する返礼としては少し重過ぎるしな」


「でしょうね。胸のない女性大魔法使いと、胸がなくても何とかできる男性大魔法使い……30年後の魔法戦力を考えれば、子供を作らせるべきです。国としては」


「国か……フォルカ殿にも幸せになる権利はあろうに」


 貴族男性の顔には深い憐憫の情。まさか本人が3Pをエンジョイしているとは夢にも思っていない。


「ガスティーク侯爵とて、本人が拒絶していれば断っただろうさ。恐らくフォルカ殿が受け入れたのだ。しかしなぁ、それで良いのか?」


「フォルカ殿は対ポメイス戦争で凄まじい活躍をされた。彼がいなければ抗魔石鉱山はどうなっていたか分からん。英雄と言っても過言ではない。グレスの称号は名誉なこととはいえ……」


 余りに、フォルカが損をしている。それが彼らの感想だった。




 王都の立派な民家では、青髪の女性とピンク髪の女性が、今日もお茶をしていた。

 青髪の女性はそこまで乗り気ではないのだが、ピンク髪の女性には他に友人が居ないので付き合ってあげていた。


「……結局、これも真実の愛ね」


「えっと、何?」


「フォルカ様とリスティ様のことよ。クイトゥネン家のセレーナ様、ラーシャ様とご結婚なされたでしょう? あれもフォルカ様とリスティ様の真実の愛によるものなのよ」


「もう一度聞くわよ? 何?」


「真実の愛で結ばれたフォルカ様とリスティ様、しかし高位貴族ともなれば、側室は娶らざるを得ない!」


「えーと、後半はそうね」


「リスティ様は胸がない。そこで巨乳の側室を娶ったら、まるで不本意な婚姻を王家に押し付けられて、心を側室で満たそうとしているようにしまう。それが嫌で、フォルカ様は胸のないお二人を側室に選ばれたのよっ!! つまり全ては真実の愛故に!」


「そう……友達辞めていい?」


「駄目よ、私の友達一人だけしか居ないんだから」


 ピンク髪の女性はそう言って胸を張る。


「何で自慢げなの?」


「お子様もお生まれになるのでしょう? 素晴らしいわ。愛の結晶ね。素敵」


「素敵なのは貴方の脳だと思うけど、まぁ子供はおめでたいわね。大魔法使い同士の子供だもの。みんなを守ってくれる強い魔法使いになるわよ、きっと」


「あのね? 強いとか弱いとか、愛には関係ないのよ」


 何だか偉そうにピンク髪の女性が言った。

 コイツの相手は疲れるから、暫くはお茶を断ろうと青髪の女性は思った。




 王都貴族街の巨大な邸宅で伯爵令嬢が嘆いていた。部屋の中には彼女の他には侍女が一人だけ。


「フォルカさまぁぁあ おいたわしや、また胸が、胸の」


「どうなんですかね。リスティ様のときと違ってパレードしてないから表情は見れてないですけど。案外双子のタブル初夜だとか喜んでたりして」


「そんな訳ないでしょ!!! ああ、フォルカ様が不憫だわ。胸の大きさ3人足しても私の片方分もないじゃない」


「正妻と側室の胸のサイズを足す発想は個性的ですね。その比較意味あります?」


「家臣なのに言葉がキツイ! ううううっ、クイトゥネンが良いならうちだって概ね同格じゃない」


 フォルカ狙いだった彼女は、フォルカとリスティの結婚を一通り嘆いた後、父親に「ガスティークの側室狙いどうかな」と聞きに行って「駄目に決まっているだろう」と秒で却下されていた。


「お嬢様、クイトゥネンは特殊事例です。子供はクイトゥネンが引き取るそうじゃないですか。あれ、嫁入りじゃないですよ。クイトゥネンの分家がガスティーク家の中で生殖させて貰ってるだけです」


「何でそんなに冷静なの!? あと、言い方が少しグロい」


「私は当事者じゃないですから。あと、私は寄生生物とか好きでして」


「伯爵家の家臣だから貴方一応ギリ貴族よね!? 寄生虫とか好きなの!?」


「えへへ。お嬢様も興味があれば本とかお貸ししますよ。標本もあります」


「要らないわよ!」


「ま、そんなことより、将来を真面目に考えましょうよ。旦那様に全て任せるなら、それもありですけど。私は王都の近場がお勧めです。社交シーズンの度に移動が大変ですからね」


「もうちょっと私の幸せベースで考えて!」




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侍女ちゃんと伯爵令嬢、再び

個人的にはピンクと青も好き


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