第57話 でれでれフォルカの一日
朝、俺はリスティの寝室にいた。ベッドに腰掛けたリスティの前に膝を付いてしゃがみ、彼女のお腹に手を当てる。
「あかちゃん、お父さんだよー。大きくなって偉いねー」
今日もお腹に話しかける。端から見たらキモいかもしれないが、構うものか。リスティは少し恥ずかしそうに微笑んでいる。
「元気ですかー?」
「今朝もお腹の中でよく動いてるから、元気だと思うよ」
「そうか、良かった。元気でえらいぞー」
お腹に耳を当てる。ドクドク、ゴロゴロ、音が聞こえる。基本的にはリスティの心臓や筋肉、その他内臓の音だろう。でも赤ちゃんの出す音も、どこかに混じっているはずだ。聞こえたとしても分からないけど、聞き耳を立てる。
リスティのお腹はすっかり大きくなった。生まれる日もそう遠くない。
エコーとかはないから、男か女かは全く分からない。俺はどっちでもいいけど、リスティは女の子だと胸が心配だから男の子がいいらしい。俺は俺の母も、俺の父方の祖母も巨乳だし、リスティだって親は爆乳だから大丈夫なんじゃないかと思っているが、不安なのは分かる。
さて、そろそろ行かねば。
「じゃあ、お仕事してくる。リスティ、赤ちゃん、またね」
リスティにキスをして、部屋を出る。
庭に出て『聖水』供給、その後は書斎兼執務室へ移動する。部屋には既にリタがいた。今日も彼女と一緒に事務仕事だ。でもその前に
俺がリタに近づく。リタのお腹も結構大きくなってきた。もちろんリスティ程ではないが、明らかに妊婦といった体型だ。俺はしゃがんでリタのお腹を撫でる。
「赤ちゃん、君のお兄ちゃんかお姉ちゃんは順調に大きくなってるよ。君も元気に大きくなってね」
リタの方のお腹にも話しかける。そしてお腹に軽く頬擦り。リタは少し困ったような顔をしている。
「フォルカ様、人前ではやらないで下さいね」
「分かってるよ。大丈夫」
俺は最低限理性的なので、安心して欲しい。
そこでドアがノックされる。リタのお腹から離れつつ、「どうぞ」と返す。
扉が開き、セレーナとラーシャが入ってきた。
「フォルカさん、おはようございます。リタさんもおはよ」
「おはようセレーナ、ラーシャ」
「おはようございます。セレーナ様、ラーシャ様」
書斎兼執務室には机が増えている。セレーナとラーシャも事務仕事をしてくれると言うので、とりあえず机を置いた。
「じゃあ、説明しながら進めていくね」
人に仕事を教えるのは難しい作業だ。どう進めようかと考え、俺は前世、サラリーマン時代の遠い記憶を辿る。OJTをやらされたとき、どんな風にしただろうか。
しかし記憶は曖昧だ。「飲み会では学生時代のノリでイッキ飲みするな」とかそんなアドバイスをしたことしか思い出せない。あと、
まぁ、そもそも状況が違い過ぎて参考にならないか。
俺はガスティーク家の領地運営の状況や、各種事業の概要から二人に説明する。
セレーナとラーシャはふむふむと頷きながら、聞いている。
しかし、何か4人いると『係』っぽいな。係長フォルカ・ガスティークだ。2人は妻で1人愛妾だから、セクハラの心配が無くてよい。
くだらないことを考えつつ、予算関係の書類を二人に見せながら説明、書類の中には『ラボ』という項目が出てくる。
「ラボ……これが色々研究している場所でしたっけ?」
セレーナとラーシャには一応ラボの概要は説明済みだ。
「そう。今日の午後、家臣のクーデルが二人を案内する予定だから、見学してきて」
ちなみにラボの何人かのスタッフが風属性適性
「そうだ、セレーナ、ラーシャ。ラボは好奇心の強さや頭の良さを重視して、平民からも何人も取り立てているから、礼儀とかイマイチなこともあるかも。不快なことがあったらゴメンね。俺に言ってくれれば指導するから」
「分かりました。大丈夫です」
そうだ、もう一つ。
「あと、地下牢に人体実験用の両腕のない囚人がいるけど、引かないでね」
俺がレンドーフ伯爵領で捕まえた山賊だ。尋問が終わったら欲しいなと希望を伝えていたら無事に運ばれて来た。
俺が粉々に砕いた両腕は壊死して無くなっていたし、長く激しい『尋問』で人数は4人に減っていたが、クーデルは喜んでいた。突貫工事で地下牢を作り入れてある。
「「え? 人体実験用……」」
なんか、少し引かれた。
昼食を挟んで午後、引き続き事務を進める。セレーナとラーシャはラボに行ったので俺とリタの二人だ。
「リタ、疲れたらすぐ休むんだよ。無理したらまた母さんに怒られるよ」
リタが黙々と計算をしているので、声をかける。
働き者のリタはお腹が大きくなってからも、普段と変わらぬ勢いで働き、俺が「無理しちゃ駄目だよ」と言っても「大丈夫です」と動き続けていた。そしてあるとき、俺の母に「お腹にいるのがガスティーク侯爵の孫であることを自覚なさい」と怒られたのだった。
「はい。心得ております」
そう答えるリタは少し嬉しそうだ。
母が家臣を叱るなど殆どない。それが人の多いところで大きな声を出したらしい。
リタは父親が平民の商人で、家臣の中で下に見られてしまうことが多い。
「重たいものとかは持っちゃだめだし、事務も疲れない範囲でね」
リタに念押しし、俺は報告書を確認する。
防具の生産は順調だ。数ヶ月後には戦時には他の家に貸し出せるぐらいの数が揃う見込みである。
後はコライビに人を集めたせいで薄くなっていた警備体制にも一応の手当てが完了した。警備兵を新たに雇用したのだ。スパイが入り込むと嫌なので、能力よりも信頼性重視で選んでいる。広く募集はせずに、ガスティーク領に先祖代々住んでいる農民の三男などから一本釣りで採用した。給料は控え目だが自活する手段に乏しい農家の次男以降には魅力的だ。
諸々概ね、問題なし。
その後は最近サボりがちだった魔法戦闘訓練をして、少しのんびりしてから夕飯を食べて、平和な一日の終了だ。
夜が深まる頃、予定通り寝室にセレーナが来る。見た目は髪が長い以外はラーシャと同じだが、当然ながら別の人間なので、夜の反応も少し異なる。
セレーナはキスが好きなようだ。前回は最長20分ぐらい続けた。長いキスを終えるとトロンとした目で、満足気に惚けていて、とても可愛かった。
「フォルカさん、来ました」
セレーナはそう言うと、とことこ近付いてきて、ベッドの上に座る俺の膝に乗る。目を合わせて微笑んで、俺の首の後ろに手を回すと、キスをしてくる。
可愛いなぁ。
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