第56話 歓迎会

 セレーナ、ラーシャとの夜は素晴らしかった。

 同じ顔の美少女が二人、自分の腕の中にいる。その非現実的な状況に興奮し、大いに盛ってしまった。


 たぶん、俺は歴史上トップクラスの幸せ者だろう。だって今まで世界で何人が、『双子美少女ダブル初夜』を実現したと言うのか。

 人の歴史は長い。権力で無理矢理とかならいるかもしれない。だが、二人共恋愛感情ではないにせよ俺に好感を持ち、笑顔でキスしてくれる状況だ。

 神様、いるならありがとう。フォルカは幸せです。



 さて、結婚式の後、俺達は4日王都に滞在し、レミルバのガスティーク邸に帰った。ただ父だけは王都に残った。先代国王誕生日の夜会まで王都で社交やら仕事やらをこなし、それから帰るそうだ。

 短い滞在ではあったが、リスティは王城に通って家族とのんびり過ごせたようで、良かった。


 セレーナとラーシャがレミルバ入りしたとき、市民は道に出て盛大に歓迎した。リスティのときと違い、今回は事前に根回しをしてのことだ。正妻なら市民は言わなくても歓迎するが、側室だとスルーされるかもしれない。それは寂しいので、各種組合等を通じて「歓迎してくれるとガスティーク家は嬉しいよ?」とお気持ちを表明しておいた。


 セレーナとラーシャは馬車ではなく、直接馬に跨ってレミルバ入りし、市民に手を振っていた。途中幼児が「あれーまたおっぱい小さいよ」とか言って親に口を塞がれていたが、まぁ、そのぐらいのトラブルは仕方ない。


 改修工事の完了した部屋に荷物を運び込み、二人は無事にガスティーク邸入りした。



◇◇ ◆ ◇◇



 レミルバに戻った2日後、俺とリスティはガスティーク邸の広間にいた。


「うん。その花は廊下側の壁に飾って。大テーブルはもう少し奥側に」


 リスティが使用人達に指示を出す。セレーナとラーシャの歓迎会の準備をしているのだ。


 主催はリスティ、正妻として側室を歓迎している姿勢を示すため、挙式に向かう前から準備を進めてきた。


 参加するのはガスティーク家の家族と家臣達、勤続年数の長い使用人、それと一部領内の有力者だ。

 ガスティーク家の家臣と言ってもガスティーク邸の人間だけではない。当然ながらガスティーク家の家臣は領内を統治するため各都市や町にも散っている。彼らも業務が許す範囲でレミルバに集合する運びだ。


 内容は酒や料理の出る夜会ではなく、お茶とスイーツを用意した大規模ティーパーティーだ。セレーナとラーシャはその方が楽しいだろうし、何よりインパクトがある。


 日本人的な感覚だと、酒や肉料理の出る普通の夜会より格が落ちそうに感じる。だが、実際は逆だ。茶葉は下手な酒より高いし、高価な砂糖を惜しげなく使う予定なので、費用は凄いことになっている。同じ規模の夜会なら5回は開催できるだろう。金はかかるが、家臣らへの慰労も兼ねて盛大にやる。

 ガスティーク家の会計から出してもよいが、今回はリスティと俺で出す。俺もリスティもお金はあるのだ。


 飾り付けやテーブルの配置が完了し、厨房を見に行く。明日に向けて必死の作業が行われていた。皆殺気立っていて、凄い。焼き菓子は既に作り始めているので、甘い香りが辺りに広がっている。


「何か困ったらすぐに言って! じゃあ頑張って!」


 と応援だけして厨房を去った。



 一夜明けて歓迎会当日、時刻は昼過ぎ。続々と参加者が集まってくる。

 今日はガスティーク内の会なので気楽だ。一番身分が高いのは主催のリスティという状況、何か起きても笑い話で済む。つまり今日の俺は甘いものを食べてるだけでいい。素晴らしい。


 気楽だが、会場の様子は壮観である。ケーキにクッキー、揚げ菓子ドーナツ、スコーン、ババロアなどなど、甘いものが大量に並べられている。

 一番の目玉は苺のショートケーキ。温室産の苺に、生クリームがたっぷり使われた驚異の一品である。参加者達は目を丸くしていた。


 これだけの甘味に囲まれるのは多くの参加者にとって人生で最初で最後だろう。


 リスティがセレーナとラーシャを歓迎する言葉を述べて、会が始まる。


 セレーナとラーシャは結婚式の高砂たかさごっぽい感じで小テーブルに座らされ、そこに主要な家臣から順に、参加者が挨拶に行く流れだ。結婚の披露ではなく、二人の歓迎なので俺は並んで座りはしない。


 家臣の紹介がこれで終わるので、楽ちんである。


「セレーナ様、ラーシャ様、改めまして家令を仰せつかっておりますミュズリ・ベルモントでございます。どうぞよろしくお願い申し上げます」


 家令のミュズリさんから順にセレーナとラーシャへの挨拶が始まる。


 挨拶に来る以外の参加者は早速甘味に手を伸ばす。美味しいとか、凄いとか、色々な声が聞こえる。好評のようだ。


 5人程の挨拶が終わったところで人が途切れる。事前に何人かの人間には、前の人の挨拶が終わってから数分空けるように言ってあるのだ。そうしないと二人がおやつを食べられない。


 セレーナとラーシャが苺のショートケーキをを食べ、二人揃って目を輝かせた。


「どう? 美味しい?」


 俺はトコトコ近付き、二人に話しかける。


「はい。これは凄いです。甘くてふわふわのパンに、生クリームたっぷり、何より苺が、もう冬と言っていい季節なのに」


 二人は温室のことは知っているが、実際に食べて感動している様子だ。


 苺に驚いているのは二人だけではない。ガスティーク家の中でも秘密の温室を知る者は僅かだ。使用人や有力者は、驚きを通り越して怯えていた。


 王家でも苺小屋こと温室が建設されたので、『季節外れの苺を作る未知の手段』が存在することまでは秘密からは外れている。

 彼らの口から色々と広まるだろう。来年からは王家回りでも季節を問わず苺が出回るが、その謎の技術がうちガスティーク由来であることは暗に伝わる。


 何か分からないがガスティーク凄い、となる筈だ。


 セレーナとラーシャがケーキを食べ終わったところで、挨拶が再開される。


「セレーナ様、ラーシャ様、お初にお目にかかります。私、マリーバの管理を務めております……」


 今挨拶をしているのはクーデルのお父さん。家臣の中では重鎮の一人と言える。茶色い髪の、厳ついおっちゃんである。


 どんどんと挨拶は進む。合間に侍女がお菓子を取ってきて、セレーナとラーシャも色々と食べる。お茶も飲んで楽しそうだ。


 そんな感じで、恙無く、歓迎会は終了した。インパクト抜群の良い会になったと思う。


 費用は凄いけど。


◇◇ ◆ ◇◇


 歓迎会の日の深夜、俺はベッドの上に寝転がって深呼吸をして、息を整える。


 隣にはラーシャがいた。セレーナは自室だ。俺とて毎回3人でなどとは思わない。初夜以降も何度かしたが、それは一人づつである。


 少しして息も落ち着き、俺はラーシャに話しかける。


「ラーシャ、今日はどうだった?」


「えっと、少し気持ちよかったです。最初の日は痛かったですけど、段々と慣れてきました」


 顔を赤らめて答えるラーシャ。可愛い、でもそうじゃない。


「あ、その、そっちじゃなくて、歓迎会」


「美味しかったです。でも相当な出費だったんじゃ……」


「頻繁にやるのは厳しいけど、一回ぐらいは全然平気。気にしないで」


 俺は『聖水』の半分を領外に売って稼いでいるし、リスティに至っては国内最高の治癒魔法使いだ。金は稼げばいい。


「凄いですね……流石はリスティとフォルカさん」


 セレーナとラーシャはベッドでもまだ俺を『さん』付けで呼ぶ。まぁ、このぐらいの距離感も悪くはない。

 というか、少し心に距離があるのにやってる行為は ”子作り” というのが逆に興奮を増している。


 俺は笑って「それほどでも」と返した。





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フォルカくん、少しキモい。


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