第52話 フォルカの野望
レミルバのガスティーク本邸に帰った俺は、やはり地味に忙しかった。
まずは防具の増産という仕事がある。
マンジュラ派が大人しかったという根拠の薄い理由だが、腐るものでもない。もしものときに後悔するのは御免だ。
鉄は生産量を増やしているので、それを使って
でもそちらは、たかが事務である。
重たいのはセレーナ、ラーシャとの結婚準備である。
これは結婚式の準備とガスティーク邸での受け入れ準備に大分できるが、大変なのは結婚式についてだ。リスティと結婚したときはロフリク家の文官達が血反吐を吐いてくれたが、今回はうちとクイトゥネンで頑張らなくてはならない。
これが実に悩ましい。
なので、プチ家族会議が開かれていた。父と母、俺とリスティの4人でテーブルを囲む。
「さて、フォルカとセレーナ、ラーシャの結婚式だが……どうするか」
眉間に小さくシワを寄せて父が言う。
「今回はイレギュラーが多いから、判断しなくてはならない点が多いですよね。まずは式を王都でやるか、レミルバでやるか」
王都の大聖堂とレミルバにある教会では宗教的な格が大きく違う。
通常は側室の式を王都大聖堂で執り行ったりはしない。その意味ではレミルバの教会が順当だ。
だが今回嫁入りするのは上位の伯爵家、クイトゥネン家の長女と次女だ。その上、二人は大魔法使いでもある。
そして何より、セレーナ、ラーシャが産む子供はクイトゥネンの後継者となる方向で検討されている。普通の側室のように血統のスペアを出産する要員ではない。
こうなると、大聖堂の方が適切と考える人もいるだろう。
つまり甲乙つけがたい。クイトゥネン側も一長一短と思っているらしく確たる希望はない。
だが、俺は大聖堂派だ。極めて下衆な理由で。
「レミルバでやれば二人は気楽でしょうね。変な視線には晒されないから」
母がそう述べる。
確かに、二人は胸が大きくならずに3年近く引き籠もっていた。大聖堂で大々的に式をやると色々な目に晒されるだろう。
レミルバでやれば参列するのは両家関係者ぐらいで済むから変な心配はいらない。
どう返すかと思っているとリスティが口を開いた。
「ですが、色々な目で見られるのは遅かれ早かれです。今後も引き篭もり続ける訳にはいきませんから。いっそ王都で挙式し、披露の夜会も正式に開いて社交復帰した方が、雑音は早く収まるかもしれません」
リスティ、ありがとう。俺も乗る。
「大聖堂の方がセレーナとラーシャが尊重され、重く見られている印象を与えられます。王都で挙式した方が雑音の総量は少ないのでは、と思います」
父が「むぅ」と頷く。
さて、なぜ俺が大聖堂を推すか。
俺には実は野望がある。
しれっと、初夜で3Pという野望が。
さも当然のように、自然とそういうことになったように、二人をベッドに並べたい。
変態と、呼びたければ呼べ。
だが、双子の美少女を二人纏めて妻に貰うとなったら、多くの男はそれを夢見るだろう。多数派という意味ではむしろノーマルである。仮に変態だとしても、変態と言う名のマジョリティである。
それと大聖堂になんの関係があるのかと思うだろう。確かに直接は関係ない。
しかし、今回の結婚式には、どこでやるかという論点の他に、何回やるかという論点もあるのだ。日をずらして二回式を挙げるか、纏めて一回に済ませるか、という選択である。
俺は式を一度で済ませ、二人とも初夜なんだから、二人ともですよ、それが当然ですよね? という顔をして、3Pに持ち込みたい。
大聖堂で挙式となった場合、招待する貴族の範囲は広くなる。当然、式を二回やるハードルは高い。みんな暇ではないのだ。新婦の髪の長さぐらいしか違わない催しを何度もやられても困る。
レミルバだと必ず二回結婚式をやるという訳ではないが、大聖堂を選んだ時点でほぼ一回コースが確定する。
ちなみに話の流れでレミルバとなってしまった場合のプランBも考えてある。アル兄を呼び、ドメイア公爵にも参加を呼びかけて、可能なら王家からも誰か出るように誘導する。参加者を豪華にして一回で済ませざるを得なくさせる計画だ。大変なので発動はしたくない。
「あと、今後リタさんも娶るとなったとき、セレーナ、ラーシャとの格の差を出すことにもなります」
リスティが言う。そうか、それもあった。リタの式を挙げるとしたら、それは確実にレミルバの教会だ。もちろん同じ場所でも内容で格の違いは出せるが、よりハッキリ差を付けられる。
「……なるほど。そういうことなら王都大聖堂でいいかもしれません」
少し考えた後、母もそう言った。よし。
「分かった。なら王都大聖堂で挙式の方向でクイトゥネンに話そう」
父は方針を決めてくれた。野望に一歩前進だ。
「となると夜会のことも考えねばな。ガスティーク邸の広間に収まれば良いが……念の為に王城の広間も押さえておくか」
側室を娶るとき、正式な夜会は開かないのが普通だ。両家の関係者でお祝い会はするがそれで終わりである。今回ならガスティーク家とクイトゥネン家、俺の母の実家であるレディング家、セレーナ、ラーシャの母親の実家であるオルサーム家で会を開く形だ。
たが、側室としての結婚で夜会を開いては駄目というルールはない。大聖堂で挙式するなら開く方が自然だろう。
王都ガスティーク邸の広間でも夜会はできるが、参加者が増えると狭い。王家に頼めば城の広間を貸してくれるはずだ。
「私もそれが良いと思います」
俺と母も頷き、プチ家族会議は終了した。
その後、俺とリスティ、リタとマリエルさんも入って、セレーナとラーシャの住む部屋について検討する。
ちなみにマリエルさんは悪阻も治まり、妊娠は順調とのことだ。
テーブルにはガスティーク邸の図面が置かれている。
「フォルカ様とリスティ様の部屋の隣、この区画が空いているので、場所は決まりでよいですよね」
「うん。それでいい。問題はどう改修するかだけど」
「連れて来る侍女は合わせて7人って言ってたよ。侍女を全員
「なるほど。シンプルにセレーナの部屋、ラーシャの部屋、二人共有の居間、侍女の控室、後はトイレと収納部屋って感じで良いと思うけど、どう?」
今ある間仕切壁を壊して、間取りを作り直す。面積でいうと70平方メートルぐらいあるから、そのぐらいは十分入る筈だ。
「大枠はフォルカ様の仰る間取りで構わないかと。何か必要になれば、その時対処すればいいですから」
マリエルさんが意見を述べてくれる。
「私も良いと思う。マリエル、リタさん、動線とか考えて、具体的にどう割るのが使い易いと思う?」
リスティが二人に意見を求め、仮の図面が引かれていく。こういうのは楽しい。幾つも案が作られ、比較検討を経て、一つの間取り案が選ばれる。
「よし、これで父さんと母さんに見せて、その後大工達に持っていこう」
こんな感じでセレーナ、ラーシャとの結婚に向けたタスクは進んで行った。
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フォルカくんは少し変態。
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