第45話 情報共有
夜会の翌朝、王都ガスティーク邸の食堂に、両親と俺、リスティ、ライラ、クーデルの6人が集まっていた。
どこの貴族とどんな話をしたか、情報共有をする為の打合せである。
「では順番に昨日話をした相手と内容を言っていこう。まずは私からだが……」
次々と名前が挙がるが、殆どの貴族は懐妊おめでとうとの言葉だけだ。さして重要ではない。
「重かったのはマンジュラ公爵ぐらいか。お祝いの言葉から始まったが、グリフィス強硬派に来いと婉曲的にぐちぐち言われた」
「つまり、平常運転と」
「そうだな」
俺の言葉に父さんがそう返す。毎回なのだ。
「ただ、妊娠によって雑音は減ったな。結婚式のときの怪訝な雰囲気はだいぶ収まった」
確かに、俺とリスティの結婚そのものを不穏に思っている人は減った。まぁ俺は『マジ、これとやれたの!?』って奇異の目で見られたが、そんなことはちっぱいの輝きの前ではどうでもいいことである。
「では、私とリスティですね。父様達と同様にお祝いの言葉を言われただけが殆どで……」
俺は貴族の名前を挙げていく。
「失礼な表情の人も居ましたが、言葉は定型的なお祝いの言葉でした。そしてこちらにもマンジュラ公爵家は来ました。ヴィーダル殿です」
俺はマンジュラ公爵家ヴィーダル殿との会話を報告する。
「……ヴィーダル殿はお父上と綺麗に同じ方向を向いているな。まぁ、対グリフィス戦争で亡くなった異母兄弟とは仲が良かったらしいから、道理か。クーデル、お前は?」
父さんがクーデルに話を振る。
「えっと、はい。緑熱症の発表の場にいた方々からは何度か話しかけられました。でも大した答えはしてないです。リスティ様の布に画像を出す魔法が見事だったと皆褒めてました。後はライラ様やリスティ様の後ろに隠れていました。ごめんなさい」
やはりプロジェクター魔法のインパクトは大きかったのだろう。ちなみに極小生物と違い、プロジェクター魔法は秘密には指定していない。
「うむ。その感じだと、極小生物の確認手段を純粋な魔法と誤認させるのには、成功しているようだな。ライラはどうだった?」
「えっと、私は……」
ライラが説明を始める。ライラのところにもマンジュラ派は来たようだ。ただ、グリフィス絡みの露骨な発言はなく、世間話だけだったそうだ。さり気なくガスティーク家の状況を探るような質問も織り混ぜられていたが、ライラは上手く返したようなので、問題はない。
「途中でアルヴィ様にダンスに誘われて、その後は兄様とも合流してました」
「そうか。アルヴィ殿とのダンスは息が合っていて上手かったと聞いたが、どうだった?」
「アルヴィ様が合わせてくれるので踊り易くて、楽しかったです」
答えるライラは屈託のない笑顔。うんうん、いい感じのようだ。アル兄が本当に身内になる日も近そうである。
「特に問題は起きていないようね。皆が上手く立ち回ってくれて嬉しいわ」
そう母が微笑む。
「その上で、何か気になったことはあるか? 私は一つある」
父が少し表情を引き締める。
「俺も一つあります」
俺は父と目を合わせる。同時に口を開いた。
「「マンジュラ公爵派が大人しい」」
言葉が見事にハモった。
確かにマンジュラ公爵も次期当主のヴィーダル殿も、色々と口撃はしてきた。その他のマンジュラ派貴族もグリフィス強硬策を勧めていた。だが、どこか熱量が小さい。具体的な手札を切ってくる訳でも、手札がない焦りを見せるでもなかった。
「フォルカもそう感じたか。少し怖いな」
「ええ。備えた方が良いかもしれません」
何か分からないが、秘策でもあるのかもしれない。もちろん杞憂の可能性の方が高いが、無理なく打てる手は打っておくべきだろう。
「ふむ。防具の前倒し生産ぐらいはするか」
「はい」
とりあえず
「それと、もし父さんに余裕があれば例のものも、数を作っておきたいです」
俺は指でジェスチャーし、目的物を伝える。
「そうだな。時間を見つけて作業しておこう。他に何かあるか」
父が一同を見回すが、発言はない。
「では、以上とする。皆ありがとう、お疲れ様」
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