第42話 クーデルの発表会


「本当に凄いわね、この馬車」


 王家への挨拶が終わって数十分後、俺はシャルロッテ王妃とフェリシー王女の二人と馬車に乗っていた。献上した特製馬車だ。

 試運転ということで、王城の周りを一周する。


 ちなみにリスティは、クーデルと一緒に国王陛下に遠心分離機を説明しに行った。生クリーム作りが捗る筈だ。


「ええ、流石はガスティーク侯です。私も土属性の使い手、ここはガスティーク侯に弟子入りして技術を学ぶべきでは? ということで、私もレミルバに行きます」


 フェリシー王女がまた何か言ってる。


「駄目。貴方はそろそろ姉離れしなさい」


 シャルロッテ王妃が切って捨てる。


 フェリシー王女は「嫌です」と迷わず首を横に振った。


「……この子の放言は置いておいて、フォルカさん」


 シャルロッテ王妃は改まった感じで、じっと俺の目を見つめてくる。


「はい。何でしょう」


「リスティが小さい頃と同じように屈託なく笑っています。あの子を選んでくれて本当にありがとう」


 瞳を潤ませて、王妃はそう言った。


「本当、お姉様はすっかり元に戻りました。私からもありがとうです」


 フェリシー王女も同意を示す。


 確かに ”顔合わせ” の時のリスティは暗い感じで今とは全然雰囲気が違った。記憶を辿ると、幼い頃見たリスティは花が咲くように笑う子だった。なるほど『戻る』という表現には頷ける。


「リスティは最高の妻です。こちらこそですよ」


 俺は本心を返す。性格が良くて、優秀なちっぱい美少女と結婚して、俺は只々ただただ幸せだ。それが、ここまで感謝されるとは、この世界は本当に歪んでいる。


「ちょっと暗いお姉様も悪くはないけど、やっぱり明るい姉様の方がより素敵ですからね。ということで私もレミルバに! 明るい姉様と暮らしたい!」


「いい加減にしなさい」


 シャルロッテ王妃がフェリシー王女にチョップしたところで、一周が終わった。



◇◇ ◆ ◇◇



 王城内にある広間の一つ、そこに机と椅子が等間隔に並べられていた。そして、椅子の向いている方向を前として、前方の壁には白い大きな布が張られている。

 大学の教室のような雰囲気だ。


 今日は緑熱症の原因菌が発見されたことの発見会である。


 椅子に腰掛けるのはロフリク王国の伯爵以上の貴族、及びその代理と補佐だ。もちろん全部の家が来ている訳ではないが、部屋の中には全部で200人ぐらいの人間が居た。


 今日の発表はロフリク王家とガスティーク家連名で招待状を出したが、そこに具体的な発表内容は書かれていない。なので、皆今日は何の発表なのだろうと、周囲の人と話している。


 俺は壁際に椅子だけ置いてひっそり座っていた。隣には父もいる。今日は俺達の出番はない。リスティとクーデルが頑張るのを眺めるだけのお仕事だ。


 開始の時間になり、扉が開く。まず入って来たのは国王陛下だ。まさか国王が登場するとは思っていなかったのだろう。予期せぬ事態に一瞬のざわめきが広がり、次の瞬間には静まり返る。


 陛下の後ろに、リスティとクーデルが続く。リスティは軽く会釈だけして、最前に一つだけポンと置かれた机に座る。その机には何かが置かれ、上から布がかけられている。


 国王陛下が前に立ち、口を開く。


「多数の参加、嬉しく思う。先日ガスティーク家から報告を受けた事項につき、その内容の一部を共有すべきと私が判断した。ガスティーク家から説明して貰う」


 陛下の役割は最初の挨拶だけ。言い終わると退室する。扉が閉まった後、隅にいたクーデルが真ん中に出る。服装はワンピースにブレザーだが、そばかすは化粧で隠している。


「お初にお目にかかります。私、ガスティーク家家臣、クーデル・アルシュタンと申します。僭越ながら、私からお話をさせていただきます」


 そう言って深く礼をした。身体を起こすときに、下着が押さえきれず胸が揺れた。男性陣の ”美女だ” という心の声が聞こえた気がした。


「本日情報の共有をさせていただきますのは、『緑熱症』の病原についてになります。ご存知の方も多いと思いますが、先日発生した緑熱症の感染に対しガスティーク家は支援要員を送っており……」


 クーデルが説明を始める。まずはレンドーフ領での対応の流れからだ。皆静かに聞いているが、困惑している雰囲気は伝わってくる。何故か机に座っているリスティが気になるのだろう。


「今申し上げたのが緑熱症収束までの概要になりますが、今日の本題は『緑熱症』の病原体についてです。リスティ様、お願いします」


 クーデルがそう言うと、リスティが布を取り払い、聖属性魔法を発動する。


 前方壁に張られた白布、スクリーンに画像が表示された。表示されているのは緑熱症菌のスケッチだ。これだけ見ても何が何だかさっぱりだろう。だが、聴衆には衝撃が走った。突然白布に画像が出るなど、想像もしないだろうから、当然だ。


 リスティのやっているのはプロジェクターが普及する前に使われていたオーバヘッドプロジェクターOHPとほぼ同じ原理での画像投影だ。俺が成型した薄ガラスに描いた絵を聖属性魔法の光操作によってスクリーンに映している。


 参加者の多くは魔法が使える。詳しい原理は分からずとも、リスティの魔法による光操作だということはすぐ理解できるだろう。

 リスティの光操作魔法で驚かせ、極小生物を ”見た” 手段もリスティの魔法だと思わせる算段である。


 ガスティーク家からの発表なのに国王陛下が挨拶し、父と俺が『脇役です』と端に座っているのも、リスティが主役というイメージを補強するための策だ。


「今前方に映っているのが、緑熱症患者の吐瀉物から発見した病原体と覚しきものです。我々はコレが繁殖することを確認いたしました」


 そこでリスティが投射するガラス板を入れ替える。今度は被験者の投与から発症までを記録した表だ。


「また、これを培養して人間に経口接種させたところ『緑熱症』を発症することも複数人を使った人体実験で確認しております」


 ここでクーデルが聖属性魔法を発動させ、光を発生させる。光を収束させレーザーポインターのような使い方で表の該当部分を示しながら説明をしていく。

 みんな綺麗に5日で緑のゲロを吐いたので見どころのない表ではあるが、クーデルが聖属性魔法を使ったことに皆驚いている。 ”何あの美女、聖属性使いなの!?” という心の声が聞こえた気がする。


「よって、ガスティーク家では『極小生物仮説』が少なくとも『緑熱症』に関しては真実であると結論付けました」


 何度目かのざわめきが部屋に広がる。


「これらを何で殺せるか、試験を行っております。まず蒸留酒、商人の分類で言うところの『バルッア』以上の強い蒸留酒をかけると死滅するようです。また熱湯をかけても死滅します。他には石鹸の泡でも……」


 クーデルの説明は続く。スクリーンの表も入れ替わる。殺菌実験の結果をまとめた表だ。


「こちらの表は発表終了後に極小生物の部分を除き、緑熱症病原体の無力化実験結果として子爵以下の貴族にも共有いたします。極小生物については国王陛下のご判断として伯爵以上の貴族とその重臣までの秘密となりますので、適切に管理をお願いいたします」


 これで発表内容は終了だ。最後にリスティが立ち上がり前へ。緩めのワンピースを着ているし、みんな情報過多で気が散っているだろうから妊娠には気付くまい。


「本日はありがとうごさいました。皆様また初代即位の日の夜会でお会いいたしましょう」


 こうして、無事に発表は終わった。よかった、よかった。






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前段部分、前の話に入れて投稿すれば良かった……失敗。


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貧乳教徒、胸が小さいと女性扱いされない世界に転生する 〜 ちっぱいハーレムできました。 じゃん・ふぉれすとみに @GianForest

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