第41話 王家への御挨拶
翌日、俺達は王家への挨拶の為に王城にやって来た。両親とリスティ、妹二人に加えてクーデルもいる。
城に入り、ロフリク家の家臣に案内されて応接室に向かっていると、廊下の反対側に国王陛下が現れた。待ち切れないといった感じで早足で近づいてくる。後には王妃陛下を始め王家一同も続く。
「リスティ! 久しいなぁ、おめでとう! 子供は順調なそうだな。よかった。」
そう大きな声で言って、国王陛下がリスティを抱きしめる。もちろん力加減はしている。
「もう、お父様、廊下で」
そう言いながらもリスティは笑顔だ。
「貴方、まずはガスティーク侯と挨拶でしょうに……」
後から王妃陛下が呆れた声を出す。
「おう! そうだった。ガスティーク侯、そちらも元気そうだな」
国王陛下は言われたから一応挨拶という感じ。父が「国王陛下もご機嫌麗しく」と笑って返す。まぁ、愛娘が妊娠したのだ、親友なんて後回しだろう。
「お腹も少し出てきたか? 悪阻も治まったと聞いたが、大丈夫か?」
「うん、少しだけ大きくなってきた。悪阻も比較的軽く済んだよ。ほら、部屋に入ろう」
国王陛下が「うむ、そうだな」と返して、皆でぞろぞろと応接室に入っていく。
王家側はダミアン先王、レオガルザ国王、シャルロッテ王妃、ケフィン王子、フェリシー王女、イザベル第二王妃にステイン王子とフルメンバーだ。
部屋のドアが閉まった。するとフェリシー王女が両手を広げ「お姉様〜」と抱きつこうとする。
だが、リスティは手をまっすぐ伸ばしてフェリシーの頭を押さえる。リスティの方が手は長いので、こうなるとフェリシー王女の手はリスティに届かない。
「お姉様ぁ〜 廊下では我慢したじゃないですか。意地悪しないで!」
どうやら王城の廊下で姉を吸わない理性はあるらしい。吉報だ。
「駄目」
リスティの拒絶に、フェリシー王女はバックステップをして後ろに下がり、一旦リスティの手を逃れる。次に視線を右に向けて重心もそちらに傾け、横から回り込むような仕草をした。しかし、視線は右に向けたまま、脱力によって重心を逆にずらし、左へ。流れるようにリスティに迫る。フェイントからの無拍子、見事である。
だが、フェリシーは途中で止まった。ケフィン王子が背後から羽交い締めにしたのだ。
「フェリシー、いい加減にしなさい。あまり酷いと何処か遠いところに嫁に出すよう、父上に進言するぞ?」
「そ、それは駄目ぇっ!」
「なら、大人しくしなさい」
「うぇっふぅ……」
フェリシーが頭を垂れる。その様子を見て、ステイン殿下がクスクスと笑っていた。兄弟仲が良さそうで、素敵だ。
「こほん。では座りましょう」
王妃陛下の言葉に、長テーブルに両家向かい合って腰掛ける。
「では改めて。国王陛下、王妃陛下、王族の皆様。ガスティーク家は昨日王都入りいたしましたので、ご挨拶に伺いました」
「うむ。よくぞまいられた。歓迎する」
「まずは紹介を。彼女はクーデル・アルシュタン、ガスティーク家の家臣です」
「お父様、私のお友達です」
父の言葉に、リスティが続ける。クーデルは立ち上がり、一礼。
なお、今日のクーデルはもちろん白衣ではない。クリーム色のワンピースの上に濃紺のブレザーを着ている。
「そうか。リスティの友達か。うんうん、クーデルさん、よろしくな」
リスティの友人と聞いて一気に砕けた感じで声をかける国王陛下。クーデルは恐縮した様子で「勿体ないお言葉、ありがとうございます」と返す。
「王家に献上したいものが2つあります。まずは馬車を1台。主要部品は私、窓のガラスはフォルカが作ったものです」
特製サスペンション&ベアリングの高性能馬車は2台目が完成していた。予定通り王家にプレゼントする。
「凄いよ、揺れが少なくて快適」
リスティが端的な解説を入れる。
「ヘンリクとフォルカ君の合作か、それは凄い」
「もう一つが『遠心分離機』です。生クリームを効率よく作ることができる」
生クリームと聞いて、国王陛下、ケフィン王子、ステイン王子の3人の目が一斉に輝いた。さては王家の男性陣、全員甘いもの好きだな。俺も好きだから、仲間だ。
「うちの家臣がそちらの家臣に引き渡している筈なので確認して欲しい」
「うむ。なにやら良いものをありがとう」
国王陛下が満足気に頷く。
「続いてだが……報告するべきことがある。クーデル、説明を」
父の指示にクーデルは再度立ち上がり一礼。
「ご報告するのは緑熱症に関することです。まずは端的に申し上げます。先のレンドーフ伯爵領での緑熱症流行の際に緑熱症病原体を発見いたしました。培養にも成功しています」
国王陛下が目を見開く。
「詳細をご説明いたします。まず当家では以前より『顕微鏡』という装置を……」
クーデルが顕微鏡の存在と仕組み、それにより発見されていた極小生物、病原菌の見た目と性質、感染実験の結果を説明する。
国王陛下達は静かに説明に耳を傾けていた。
「なるほど。そうか、極小生物仮説、正解だったか。これは……扱いに悩むな」
そう、悩ましいのだ。疫病対策を進める上では間違いなく有用な情報であるが、知識を独占する利益もある。
「ガスティーク家としては、『顕微鏡』は秘匿しておきたい」
「ならば『顕微鏡』はロフリク王家の重臣止まりだな。ふむ、しかし『顕微鏡』を秘匿するなら結局『極小生物』も出せないか」
「父様、私の聖属性魔法による光操作だと誤認させる手筈は整ってます」
リスティが得意気に言う。
「ふむ。なら公開の目もあるか……」
「父上、広く公表するのは危険かと。培養に成功している以上、その気になればバラ撒けるということになります」
ケフィン王子が懸念を述べる。確かに本気になれば培養した緑熱症菌を敵国の都市の井戸に、なんてことも可能だ。被害が制御不可能だからやらないけど。
「懸念はもっともだな。ならば、伯爵以上の貴族限定で、緑熱症の病原体が極小生物だと判明したことまでは発表するか」
「ガスティーク家としては王家の判断に従う次第です」
「最終的な結論は重臣らとも相談してからにするが、限定公開の方向で考えよう」
「では、次の話に移りたい」
ここからはまた気楽な話だ。クーデルがまた資料を配る。今度は温室の件である。
「ガスティーク家には『温室』というものがございます。これは……」
クーデルが温室の説明をする。一通り話し終わったところで、父が口を開く。
「どうかな、これがあれば季節外れの野菜や果物が栽培できる。もし王家でも作るなら、ガラス成型はフォルカが頑張るが」
「季節外れに苺が食えると、それは、魅力的だな。しかも遠心分離機とやらでクリームも作れると」
またロフリク男性陣の目がキラキラしてる。外国の要人に冬にメロンを出して驚かせるとか、そういう使い方には興味なさそうだ。
「頼んでよいのか、フォルカ君」
「もちろんです。材料さえあれば上質な板ガラスを作ってご覧に入れます」
ここは腕の見せどころだ。
「材料なら何とでもなる。よし、場所の選定からだな」
こうして、温室の建設が決まる。
その後少し父と国王陛下が雑談して、挨拶は終わった。
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業務連絡、なろうグループサイトに序盤だけ投げ始めました。でも向こうは不定期ゆっくりだと思います。
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