第38話 リタ
夜、俺は自分の寝室で、内心ソワソワしていた。
リタが夜間に使うかもしれないコップや水差しを並べてくれている。リスティと寝室を分けたため、妙に広く部屋を感じる。
さて、ガスティーク侯爵家の家臣リタ・ラナメルは美人だ。そして脱衣練習のときに見たあの可愛らしい胸、本当に素晴らしかった。
リタはもう20歳になる。この世界のこの時代では完全に行き遅れだ。リタの胸のサイズでは今後も縁談のある可能性はほぼゼロ。つまりこのまま行けば、こんな素敵なちっぱい美人がただ歳を重ね、いずれ老いていくのである。
そんなことが、許されるのか?
否、断じて否である。
ちっぱいが、もったいない。
魚沼産のブランド米を炊いたまま放置して釜の中で腐らせるが如き、愚行だ。
もちろん、リタがその人生で幸せならそれも良いだろう。だが、リタはこの世界この時代における ”普通の女性” だ。研究をしていれば幸せなクーデルのようなタイプとは違う。
そして、次期当主の妾というのは、家臣にとっては悪くない立場だ。何より、膝枕のときに溢したあの言葉は本心だろう。
と、いうことでリスティの言葉に甘えて、リタに手を出したいと思う。
”正妻の妊娠中に何を” という感じだが、大陸西方諸国ではむしろ「血統のスペア作りは正妻の妊娠・授乳中に終わらせておけ」という文化だ。なので妊娠の確定した今が一番角が立たない。
「フォルカ様、コップはこちらに置いておきました。では本日はこれで休ませていただきます」
リタがそう言って一礼しようとしたとき、俺は「リタ、待って」と止めた。
「はい。何でしょうか」
俺は緊張を表に出さないよう表情筋を『微笑』で固定する。
「少し、相談があるんだ」
俺はそう言ってリタに一歩近づき、顔をじっと見つめた。
リタは少し困惑した顔で俺を見返している。濃緑の瞳が綺麗だ。
「リスティの妊娠が確定しただろ」
「はい」
「これで当分の間はリスティとは別で寝ることになる訳だけど……長い禁欲は少し辛いんだよね」
そう言いながら、更に近付く。リタとの距離は40センチぐらい。
「あ、あの」
リタは目をパチクリさせている。
「だからさ、リタ、君が相手してくれない?」
「あの、フォルカ様、何を仰って……」
「俺の愛人になってくれないかって頼んでいるんだ。もちろん無理強いはしないよ」
リタはテンパって何を言って良いか分からない様子で、口をパクパクさせている。10秒ぐらいして、やっと普通に言葉を発した。
「そ、そんな、リスティ様に顔向けできません」
「リスティはリタなら良いって言ってくれているよ」
「へ? そ、そうですか。で、でも旦那様が何と言うか……」
ふふ、その辺は抜かりない。キーマンに事前に話を通すのはサラリーマンの基本である。父は了承済みだ。
「父さんも無理強いしなければ構わないって。ただ正式に側室にするのは現段階では駄目って言われたけど」
「それは当然です。まだ他家から側室を娶る可能性がある段階で、家臣が先に側室となる訳はいきません」
「うん。でも、子供ができたときはちゃんと俺の子として扱うから、そこは安心して。父さんの言質も取ってある」
「あの、でも……フォルカ様ならもっと良い女性が幾らでも」
そう言ってリタは一瞬自分の胸に視線を落とす。
「リタ、俺がここで巨乳女性連れ込み始めたらリスティが悲しむよ。周囲も俺が嫌嫌リスティを抱いていたと思うだろうし」
「それは……そうですね」
「それに、俺はリタが抱きたいんだ」
いつも、可愛いな、美人だなと思っていた。優しくて、優秀で、リタが居てくれることは転生して良かったことの一つだ。
俺はリタの頭に手を伸ばし、髪を軽く撫でて、髪留めに指をかけ外す。髪が解けて、はらりと下りる。
髪を下ろすと印象が変わる。家臣の印象が抜けて、一人の女の子という感じがする。
「わ、わたしは……」
「繰り返すけど、無理強いはしないよ。断っても不利に扱ったりは誓ってしない。嫌ならそう言って」
「い、嫌じゃ……ないです。だって、私、ずっと、フォルカ様のこと……お慕い、して」
嬉しい答えだ。俺はリタの腰に手を回し、抱き寄せて耳元に口を近付ける。
「なら、俺の女になれ、リタ」
リタが小さな声で「はい」と返した。
◇◇ ◆ ◇◇
行為を終えて、俺とリタはベッドの上に寝転んでいた。
「リタ、ありがとう」
ずっと世話をしてくれたお姉さんが、きゅっと唇を結んで破瓜の痛みに耐える顔は、背徳感があって、滅茶苦茶興奮した。
あとリタは舌が長かった。昔からの付き合いだが、新たな発見だ。
「こ、こちらこそ、その……本当によかったのですか、私で」
「もちろん」
俺は強く断言する。
「あと、その聞いてもいいですか」
「うん。他人の秘密以外は何でも答えるよ」
本当は「答えられることなら答えるよ」と言うべきだろう。だが、リタになら何だって、と言う気分だった。もし『あなたは転生者ですか』って聞かれても、素直に答えるつもりだった。
「もしかして、聞こえてましたか? 山賊から女性を助けた日の夜の独り言」
ああ、あれか。もちろん正直に答える。
「うん。聞こえた。目が覚めかけたときにリタの声が聞こえて、暫くの間寝たフリしてた」
俺の答えにリタの顔がみるみる赤くなる。茹でダコみたいだ。
「ううっ私とんでもないことを……フォルカ様、はしたないこと言ってごめんなさい」
「謝ることはないよ」
素直な好意は嬉しかった。
「その、あのときは流石に私も疲れていて、二人きりだったので、気も緩んで。完全に寝てらっしゃると思い込んで。お情けいただきありがとうございます……」
「情けとか、卑屈なこと言わない」
俺はそう言って、リタに体を寄せ、唇に軽くキスをした。リタは美人なのだ。異論は認めない。
「はい……フォルカ様、これからもよろしくお願いします」
「うん。こちらこそ」
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くっ、シーンを飛ばさなくてはならないのが、辛い。
でも、ついにリタにも手を出すフォルカでした。
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