第35話 報告
任務を終えた俺達は、ガスティーク本邸に帰った。後は父に報告すれば任務完了である。
会議室に皆で集まる。メンバーは父さんと母さん、リスティ、俺、ライラだ。
「皆、お疲れ様。まずはフォルカから報告を頼む」
「はい。患者には一通り治癒を施し、建物も浄化魔法ないし即死魔法で消毒をしました。恐らく問題なく終息するでしょう。ただ、念の為にベニットとラズダムを残してきました。10日程経過観察をした後に帰還します」
まずは概要から報告する。父さんは「なるほど」と頷く。
「具体的な経過ですが……」
俺は一通りの動きを時系列で説明する。聞き終わると父は大きく頷いた。
「ふむ。私なら全員でカンシュラの緑熱症を制圧し、その後フォルカとライラ、リスティさんとフィオナのペアで治療と消毒に回っただろうが……それだと僅かに死者が増えるか。何にせよよくやってくれた。ありがとう」
父の言うプランは俺も考えはした。治療と消毒を分担できるし、護衛も固められるので、手堅い。採用しなかった理由も父の言葉の通りだ。治療にかかる時間が延びて、その間にも人は死んでいく。
「それともう一つ、リスティから話があります」
俺が視線をやると、リスティが口を開く。
「今回、クーデルが緑熱症の病原体の採取を試みました。結果、病原体と疑われる極小生物を確認しています。ラボのメンバーで実際に感染試験を行いたいのですが、許可いただけますか?」
「ラボの家臣で実験するのか……まぁ緑熱症は聖属性魔法で治癒すれば後遺症もなく完治するが」
「犯罪者か何かを使うとなると手配に時間がかかりますし、自分の感じている症状を素直に答えてくれるか分かりませんので」
「分かった。病原体を外に漏らさないように、重々注意してくれ。しかし、どうやって見つけたのだ? 吐瀉物か便から探したのだろうが、確か健康な人間でもそれらには膨大な種類の極小生物がいるのだろう?」
「二分浄化法ですけど」
少し不思議そうにリスティが答える。
「いや、リスティ。たぶん父さんに二分浄化法を説明したことはない気がする」
父は忙しいのだ。ラボの全てを報告してはいない。
「えっと、父さん。二分浄化法はクーデル発案の病原体特定方法だよ。患者から取った試料を2つに分けた上で、片方にだけ浄化魔法をかけて、顕微鏡で比較観察するんだ。過去の研究で浄化魔法は人間に有害な極小生物のみを消滅させることが分かっているから、浄化魔法をかけなかった試料にのみ存在する極小生物が病原体候補になる」
実際には条件を調整してコロニーを作ったり、色々とやっているようだが、そのへんは省いて説明する。
父は目を丸くしている。
「なるほど。しかし、クーデルは素晴らしい人材だな。残して良かった」
父の言葉にリスティが「残して?」と小首をかしげる。
「ほら、クーデルって聖属性の適性持ちじゃん? 他の貴族家と縁談を探す案もあったんだよ」
ロフリク王国では伯爵以上の貴族に仕える陪臣は貴族扱いなので、クーデルも立派な貴族だ。胸が大きくて聖属性魔法の使える美人となれば、下位伯爵家の正妻ぐらいは狙える。
なので、本人が希望すれば縁談を募集する予定だった。希望するどころか、断固拒否だったが。
「あーなるほど。クーってお化粧したら凄そうだもんね」
リスティの見立ては正しい。一度だけ化粧してドレスを着た姿を見たがことがあるが、実際凄かった。でも、クーデルは白衣で実験しているときの方がイキイキしているので、今のままで良いと思う。
「ま、何にせよ許可しよう」
そこで父は一回言葉を切り、表情を少し引き締める。
「別件で少し情報がある。コライビで捕縛した侵入者だが、 ”尋問” で証言に変化があった。直接コライビに侵入して捕まった3人は一貫して都市カーザルバで雇われたと言い続けているが、フォルカとリスティさんがコライビ対岸で捕えた2人はグリフィス王国の人間である旨の証言を始めた」
父の言葉に部屋の空気が重くなる。
「グリフィスですか。嫌な名前が出てきましたね」
グリフィス王国、8年前に突然侵攻してきた隣国だ。俺の祖父、先代のガスティーク侯もその時の戦争で戦死している。
「ああ。証言を信じるなら、2人はグリフィス王国内で活動する犯罪組織の一員で上からの命令で行動していたらしい。組織に依頼した者が誰かは知らされていないそうだ。カーサルバで人を雇ったとも言っているので7人全員の証言が整合したことになる」
「長期間の ”尋問” の末に同一の証言になったなら、たぶん本当でしょうね」
「だろうな。そしてもう一つ、マリーバを始めガスティーク領の各地から不審な人物の情報が上がってきている。色々と情報を集めていたようだが、尻尾は掴めなかった。コライビの警備に人員を集めた隙を突かれた形だな」
なんとも、嫌な感じだ。
「ただ、不審者情報の方は曖昧だ。酒場で酔っ払いに絡んで色々聞き出そうとする男が居たとか、ガスティーク関係者がよそ者の女に誘惑されたとか、製鉄所の敷地に妙な足跡があったとかな」
なるほど、一個一個は
「注意喚起ぐらいしかできないのが辛いですね」
「全くだ。ま、これはあくまで情報共有だ。改めて、皆ありがとう。レンドーフ伯爵も安心できるだろう」
報告が終わった。一仕事完了である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます