第34話 収束


 俺とリタは無事カンシュラに帰還した。街はすっかり活気を取り戻し、通りには沢山の人が歩いている。どうやら緑熱症は収まったようだ。


 代官の屋敷に向うと、広間にリスティとマリエルさん、ボンドレさんが居た。


「フォルカ、お帰りなさい。カンシュラは大丈夫。治療は完了したよ。あ、クーデルは個室に籠もっているけど、この屋敷にいるから」


 個室か。顕微鏡で緑熱症の病原体を探しているのだろう。


「ただいま。流石はリスティ。街も賑やかになって良かった」


 俺は一旦言葉を切り、ボンドレさんの方を向く。


「ボンドレ殿、北側も問題ありません。治療は終了。新規発症者も出るでしょうが『聖水』を置いて来たのですぐ治せる筈です」


「ありがとうございます。大変なご負担をおかけしました」


「いえ、ただ一つ、ピレネーバに山賊が出ました。緑熱症を持っていると困るので、捜索、捕縛して浄化魔法をかけてあります。後の対処をお願いします」


「山賊ですか……緑熱症の混乱がなければすぐに討伐できたのでしょうが、お恥ずかしい限りです。すぐに人を向かわせます」


「頼みます。あと、山賊に攫われて酷い目にあった女性がいるので、もし本人が他領への移住を希望するならガスティークは受け入れますよ」


「酷い目……なるほど。レンドーフも希望があれば移住許可は出します。お気遣いありがとうございます」


 生き残った女の子2人は、あの町では生き難いかもしれない。遠くに移住すれば過去は隠せる。2人共、胸は大きかったし、顔も綺麗だった。余計な情報さえなければ結婚相手は見つかるだろう。仕事もコライビの雇用農民とかで良ければ俺が世話できる。


 そして、俺にできるのはそこまでだ。


「母と妹はまだですかね?」


「昨夜一騎連絡にきまして、その時点でほぼ完了とのことでした。なので、もうすぐ戻られるかと」


 ふむ。緑熱症の封じ込めは成功しそうか。後は……そうだ、王都からの支援部隊が南のビデラを処置してくれるはずだった。そっちはどうなったのだろう。


 そう思ったとき、突然広間の扉が勢いよく開いた。凄い勢いで誰かが走り込んで来る。一瞬身構えるが、知っている顔だった。緩くウェーブのかかった金色の髪、青く澄んだ瞳に、作り物かと思う程に整った顔、そして大きな胸。


「お姉様っ!!! いた! お姉様だぁぁ」


 叫びながら、リスティに突進するのはロフリク王国第二王女、フェリシー・シャン・ロフリク。


 そのままリスティに抱きつき、体に顔を埋めて「すぅ~ は〜 すぅ~ は〜」と何やら深呼吸めいた息を立てる。リスティを吸ってる?


「こら、フェリシーっ! 人前で何しているの! 止めなさい」


 リスティがフェリシー王女を引き離そうとする。


「フェリシー殿下がどうして……あ、そうか。王都からの支援部隊」


 フェリシー王女は魔法適性土8、木8、聖6』で魔力量千超サウザンタの強力な魔法使いだ。わざわざ第二王女が出動するのは意外だが、疫病制圧能力は高い。


「ちょっと、どんな力よ。フェリシーっ!」


 リスティが頑張ってもがくが、フェリシー王女は離れない。凄い吸ってる。困惑する皆を尻目に5分程「すぅ~は〜」を続け、ようやく頭だけリスティから離す。腕はしがみついたままだ。


「お姉様分切れで死ぬところでした。ギリギリ生き延びました」


「フェリシー、そんな理由で人は死なない!」


「私だけは死にます。酷いですよ。皆で私を軟禁して」


 軟禁されてたの? 確かに結婚式後の披露宴でも姿を見なかったけど。


「貴方が暴れるからでしょ。ほら、離れて。王都に帰りなさい」


「ええ。王都には帰りますよ。お姉様と一緒に!」


「結婚したの! ガスティークに嫁いだの! 夏には王都に行くけど!」


 呆然とやりとりを眺めていると、フェリシー王女が俺の方をグワッと向いた。


「フォルカ様、いえ、フォルカ義兄様。お姉様が昔みたいに明るいです。良い結婚なのでしょう。なので百歩譲って婚姻は認めます。お姉様は私と王城に帰るので、通ってください」


 なんか、平安スタイル通い婚を提唱された。


「そんな訳ないでしょ! レミルバで楽しく暮らしてるから、フェリシーは王城で大人しくしてなさい!」


 フェリシー王女、腕力強いな。多少の遠慮はあるとしても、リスティが全く引き剥がせてない。


「あの、ボンドレ殿、なんか申し訳ない」 


 俺はとりあえず、蚊帳の外のボンドレさんに謝る。とってもごめんなさい。


「あ、いえ、大丈夫です」


「とにかく、私はもう嫁いだの! フェリシーだって分かってるでしょ!」


「ううっ、なら、もう私もガスティーク邸に行きます! 侍女でも側室でもいいからお姉様と一緒に住むぅぅぅ」


 フェリシー王女の叫びが響く。


 そこで、もう一度広間の扉が開いた。


「フェリシー殿下っ!」


 入って来たのは親衛隊のピエールさんと、名前を忘れたがフェリシー王女の侍女さんの2人だ。


「皆様、申し訳ございません。フェリシー殿下にマルスフィーで逃げられると、追い着けず」


 マルスフィーは王家の所有する名魔馬だ。卓越した乗馬技術で知られるフェリシー王女の愛馬である。


 ピエールさんと目が合ったので「お久しぶりです」と手を振る。ピエールさんは「あ、どうも」といった雰囲気で軽く頭を下げる。


「ピエール! デボラ! フェリシーを連行しなさい!」


 ああ、そうだ。フェリシー王女の侍女、デボラさんだ。


 ピエールさんとデボラさんが、フェリシー王女の腕を掴む。


「さぁ、フェリシー殿下、帰りますよ」

「リスティ様やフォルカ様やレンドーフ家にこれ以上迷惑をかけてはいけません。夏にはまた会えますから」


「ふぇぅぅ お姉様っ! お姉様ぁぁ」


 フェリシー王女が引き摺られて行く。


「ビデラの緑熱症は収まっております。では、失礼します」


 ピエールさんが、フェリシー王女を捕まえたまま、器用に頭を下げ、そのまま去っていく。


 部屋が、静かになった。


「えーと、ボンドレさん、妹が申し訳ない」


 リスティがペコリと頭を下げる。


 その後少しして母さんとライラが帰還。無事に処置完了とのことだった。






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妹姫登場! こんな奴でした!

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