第28話 疫病②

 伝染病の抑え込みは時間との勝負だ。俺は食堂を出て、リスティと共に小走りで自室に向かう。リタとマリエルさんも走ってついてくる。階段を上がって自室に駆け込む。


「皆! 緊急です。フォルカ様とリスティ様を馬で遠出できる服に着替えさせて! 公務なので上着はサーコート! 荷物も準備して。私とリタさんは同行の準備をしますから、任せます!」


 マリエルさんが、部屋で掃除をしていた使用人達に指示を出す。皆、一瞬だけ固まったが、すぐに指示通り動き出した。ある者は追加の人員を呼びに行き、別の者は衣類庫に走る。


 服が引っ張り出され、追加人員も駆け込んできた。使用人が群がってバーッと着替えさせてくれてる。

 荷物も使用人が選別してくれたものをチェックする。その他諸々、準備を済ませて、4人で部屋を出た。


 俺の服装は下は紺のスボン、上は濃紺のコートで背中にはガスティーク家の家紋『若草と岩雲雀』が刺繍されている。

 リスティは茶色のスボンに、同じくガスティーク家の家紋の入った白いコートだ。つい先日仕立て上がったばかりの新品である。

 色は違うが、ペアルックと言っても過言ではない。緊急事態だが、夫婦っぽくて少し嬉しい。


 リタとマリエルさんはどちらも茶色のズボンと紺のコートを着ている。


 庭に出ると、既に馬が並んでいた。同行する家臣達も続々と集まってくる。


 その中にクーデルも居た。彼女は『聖属性魔法適性5』で浄化魔法も使える。なので、出撃メンバーに入るのは分かるが、何故か大きめの荷物を背負っていた。恐らく顕微鏡だろう。目が「病原体ゲットするぜ」と言っている気がする。


「クーも行くの?」


「はい。病原体を確認するチャンスです」


 リスティの問いにキリッとした顔で返すクーデル。やはりそのつもりか、知識に貪欲で良いと思う。


「クーデル、重いだろう。誰かに持たせた方がいい。バリアス、頼む」


 俺はクーデルの荷物を手近にいた家臣の魔法使いバリアスに持たせる。クーデルより馬の扱いは上手いので、顕微鏡を壊す可能性は減る。


 母とライラもやってきた。出動するメンバーが揃ったようだ。護衛も含めて20人、中々の人数だ。


 父が俺の知らない男性と共に現れる。彼が使者だろう。使者らしき男性は深々と頭を下げる。


「要請に応じていただき誠にありがとうございます。疫病は領地北部で確認されております。私も共に現地まで参ります」


「皆、よろしく頼むぞ。指揮はフォルカが執れ。現地での判断は任せる」


「拝命いたします。使者殿、最低限のルートだけ決めてすぐに出ましょう。レンドーフ伯爵領の北部となると、街道をひたすら東ですね」


「はい。ひとまずカンシュラという街を目指したく」


 俺は「分かりました」と言って頭の中に地図を思い浮かべる。たが、そこにリタが寄ってきて、地図を広げてくれる。気がきく、ありがたい。


 地図を見て、移動の算段を立てる。


「街道を進みコデルアで馬を交換、進み続けて今日中に領境に近いバルザルヌまで進みましょう」


「バルザルヌ!? 無理があるのでは。途中で日が沈みます」


 使者殿が慌てた声を出す。だが、俺も日のあるうちに着くとは思っていない。


「ええ。そうなるでしょう。ですが、暗いなら照らせばいい」


 通常は夜道で馬に走らせるのは危険だ。だが俺とリスティがいるのだから、灯りは問題ない。


「聖属性の発光魔法ですか。しかし、その、道中で魔力を消耗するのは」


「大丈夫です。現地に着くまでには全快しますよ」


 と、俺は事も無げに言う。実は少し嘘だ。

 魔力の回復速度は魔力総量にほぼ比例するため、俺は魔力の自然回復量も大きい。発光魔法で周囲一帯を照らすぐらいなら、時間当たりの消費魔力は、同時間での自然回復でほぼ釣り合う。


「そうですか……流石は魔力量千超サウザンタ。承知いたしました」


 ひとまずの話が纏まったので、馬に乗る。今回は急ぐため馬車は使わない。各自で馬を駆り、進む。


「行くぞ!」


 俺は号令をかけ、手綱を握る。

 坂を下り、市街へ。レミルバ市民が何があったのかと驚いているのを横目に、門を出る。


 街道に出たところで速度を上げる。

 馬は交換できる街まで保てばいいし、怪我をしたら治癒魔法もある。流石に全力疾走ギャロップは無理だが、それなりに無理は出来る。俺は馬の腹を強めに蹴った。





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