第27話 疫病①
リスティを迎えての新生活は、順調にスタートした。
俺は概ね以前通り、『聖水』を供給して、事務仕事、魔法訓練、時々ガラス製品の作成をして過ごしている。
リスティには王都にいた時と同様に聖属性魔法による治療の仕事がある。
とは言え、第一王女に治療を依頼するハードルは非常に高い。ロフリク王国または友好国の貴族であることが前提だし、相応の金銭も包む必要もある。四肢欠損や失明、一部の内臓疾患などは国内でリスティにしか治せないから、頼らざるを得ない訳だが、最後の手段だ。
なので、リスティが受ける依頼の件数は少ない。今後徐々にガスティーク家の仕事も振るだろうが、現状では割りと暇だ。
暇のあるリスティは『ラボ』に入り浸ってクーデルと一緒に色々試している。リスティは土魔法も使えるので、魔法で金属加工ができるし、『雷』による電気も供給も可能だ。俄に『ラボ』は活気付いていた。
夜の方も順調。変わらず隔日で夫婦の営みを続けていた。常に性欲が満たされているというのは、凄く幸せなことなのだと実感している。心は軽く、景色は輝いて見える。
つまり、ちっぱい美少女妻最高。
さて、今日は家族で集まってお茶をすることになった。温室で栽培していたメロンを収穫したのだ。
家族でテーブルを囲む。使用人達が紅茶とカットしたメロンを用意してくれる。用意が終わると使用人は食堂から退室し、室内にはリタやマリエルさんなど少人数の信用の厚い家臣だけが残る。機密を気にせずお喋りをするための措置だ。
「では、いただこうか」
父がそう言って、お茶会が始まる。
まずはメロンをひと口、甘くて美味しい。もちろん品種改良を積み重ねた地球のそれには敵わないが、それでも十分にメロンだ。
「リスティさんは『ラボ』によく行っているそうね。気に入ってくれて嬉しいわ」
まず、母がリスティに話しかけた。最近はそうでもないが、品種改良に積極的に取り組んでいた時期は母も温室に毎日通っていた。『ラボ』にはそれなりに思い入れもある。
「はい。楽しくやらせていただいています。しかし、この季節にメロンなんて、本当に驚きです」
リスティは季節外れの甘味にニコニコしている。
「ねぇ父さん。温室、王都にも作ろうか。冬にメロンや西瓜を出せば、外国の賓客も驚かせられるだろうし。あくまで季節外れの栽培用として使えば高速品種改良までは辿り着かれないと思うから」
「うむ。まぁ、機密を気にし過ぎると利を得るチャンスも失うからな。王都ガスティーク邸にはそこまでのスペースはないから、王家に提案する形になるだろうが」
「父は喜ぶと思います。ああ見えて苺が大好きなので、年中食べたいと常々言ってました」
「確かに。国王陛下は昔からよく食べていたな。生クリームも好きだったから、遠心分離機も付けるか」
父の言葉に、リスティがちょっと困ったような顔をした。
「えっ、その……義父様、今『ラボ』にある遠心分離機は私とクーで使って」
リスティはクーデルとすっかり仲良くなり、最近は「クー」と呼んでいる。
クーデルは一見地味でそばかすもあるが、目鼻立ちは整っていて胸はHカップぐらいある。男性受けのかなり良い女性なので、リスティのコンプレックスを刺激しないか一抹の不安はあったが、大丈夫なようでよかった。
「いや、新しく作るという話しだよ。安心してくれ。あまり余裕はないが、ミュズリに仕事を押し付ければ多少は」
父が家令を酷使する算段を練っている。頑張れミュズリさん。
と思ったその時、突然のノックに続いて扉が開いた。扉の方に振り向くと、今話題に上がった家令のミュズリさんがいた。
「団欒中に大変申し訳ありません。レンドーフ伯爵から緊急の使者が参りました。領地で伝染病の流行が発生、恐らく緑熱症とのことで、支援依頼です」
部屋の空気が変わる。残念ながらお茶会は終了だ。
緑熱症は魔法治療なしでの致死率が30パーセントを超える感染症だ。抑え込みに失敗すれば被害は甚大になる。
レンドーフ伯爵領はガスティーク領の近隣領地、間に子爵領を一つ挟んでいるため隣接こそしていないが、伝染病となれば他人事ではない。
伝染病の抑え込みには聖属性の浄化魔法と木属性派生『死』の即死魔法が有効だ。ガスティーク家の伝染病対応能力は他の貴族に比べて極めて高い。当然、動くべきだ。
父が立ち上がる。
「ミュズリ、馬の準備を」
「既に指示しました」
「よし。フィオナ、フォルカ、ライラ、行けるな?」
「当然です」
「ええ。ライラ、乗馬できる服に着替えますよ」
俺と母さんがそう返し立ち上がると、リスティも「私も行きます」と言って立った。
父は頷き「ありがとう。頼む」と返す。
「では出立の準備にかかってくれ。私は使者殿と話そう」
「分かりました。リスティ、行こう」
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