第24話 レミルバ到着


 コライビでの侵入者騒動の後は特に問題もなく、ガスティーク本邸のある都市レミルバに到着した。まぁ、そうそうガスティーク領内でトラブルなど起きては困る。


 レミルバの人口は約2万5千人、この世界の基準だと中堅上位くらいの都市だ。灰色の城壁に囲まれ、北側を湖に面している。


 馬車は東門から都市の城壁を抜ける。目抜き通りを進むと、多くの市民が通りに出て手を振り、花を撒き、迎えてくれた。別に命令した訳ではない。ガスティーク家は領民からそれなりに慕われているので、嫁入りとなれば自然と歓迎される。


「栄えているけど、どこか長閑のどかな感じがしますね」


 リスティはそう言って、窓越しに市民に手を振り返す。


「うん。王都に比べればのんびりした雰囲気の都市だと思う。気に入ってくれると嬉しい」


 ガスティーク本邸は都市西側の少し高台になったところにある。目抜き通りを通過した馬車は坂道を上がっていく。上がりきると、そこがガスティーク本邸だ。


 到着すると、父さん達が出迎えてくれた。


 昼前に到着したので、一通り歓迎の挨拶を交わした後、家族で昼食となった。普段は離れで静かに過ごしている引退した祖母も、今日は一緒にテーブルを囲んでいる。

 ちなみにリタとマリエルさんはリスティの荷物を運び込む作業の監督だ。


 メニューはタラのムニエルに野菜のスープ、パンだ。

 タラを噛むとバターの風味と共に身がホロホロと崩れて、美味しい。口に合ったようで、リスティもニコニコして食べている。


「ところで、コライビの件ですが」


 お腹が落ち着いたタイミングで、俺は話を切り出す。

 コライビの侵入事件は俺達が帰るよりも前に、早馬でガスティーク本邸に伝えられている筈だ。


「ああ、報告は受けている。一応フォルカからも話を聞いておきたい」


「はい。俺達がコライビへの橋に到着した段階で既に……」


 父の言葉を受け、俺はコライビでの出来事を報告する。

 父は大きく頷いた。


「概ね報告を受けていた通りではあるが、リスティさんは凄いな。土属性派生『雷』は威力調整が難しいのに、見事だ」


 そうなんだ、父よ。俺の妻は凄いんだ。もっとベタ褒めして貰っても構わないぞ。


「二人とも上手く立ち回ってくれて助かった。ありがとう。ひとまずコライビに追加の人員を送ることにした。各地から少しづつ兵士を引き抜いて、回す。……しかし、畑を守るというのは中々に厳しいな」


「常時警備するには広いですからね……折角『品種改良』したからなるべく長く独占したいですけど」


 商業レベルの栽培をするのだから、どうやっても畑は広くなる。完璧な警備は不可能だ。

 しかしまぁ、それは分かっていたことだ。思い悩んでも仕方がない。

 俺は少し話題を変える。


「そうだリスティ、この後はどうする? 屋敷を案内したいところだけど、疲れていれば明日にするよ」


「大丈夫。座ってただけだし」


 馬車で座ってるだけでも疲れるとは思うけど、本人がそう言うなら食後はガスティーク本邸ツアーと行こう。


「じゃあ、午後はリスティに屋敷内を案内するね。父さんもそれで大丈夫?」


「もちろんだ。案内してあげなさい」


「リスティ義姉様の案内なら私もする」

「私もー!」


 ライラとアリアがそう言って手を上げる。案内は俺一人で十分ではあるが、これから家族として暮らしていくのだ。より打ち解けて貰うために関わる機会は多い方が良いだろう。


「なら一緒に案内するか」


 俺がそう言うとリスティは「よろしくお願いします」と微笑んだ。


 食事が終わり、妹2人と共にリスティへの案内を開始する。


「まず、今いるここが北館です。食堂とか、家族の居室があります。侯爵夫妻の部屋も私達の部屋も、兄さんとリスティ義姉様の部屋も、全部ここです。他に中央館、西館、南館があり、全て渡り廊下で繋がっています」


 ライラが解説を始める。つまり北館は領主一族のプライベートスペースだ。ちなみに北にあるだけで部屋が北向きな訳ではないので日当たりは良い。敷地の北側は湖が見えて景色が良いので、ガスティーク家の居所に選ばれたらしい。


「あ、北館と中央館の外壁はちゃんと吸魔石製だから」


 俺はそう補足する。吸魔石とは僅かだが魔力を吸収する性質を持つ鉱石だ。抗魔石とも呼ばれ、魔法攻撃に対する耐性が高い。破壊不可能な訳ではないが、壁の向こうから攻撃魔法で貫くとか、そういうことは困難だ。

 ちなみに吸魔石は暗い灰色で見栄えがイマイチなので、上から漆喰で白く塗ってある。


「マリエル達の部屋もこの棟?」


「はい。もちろん侍女や従者の部屋もあります」


「じゃあ、次はこっちー」


 アリアがそう言って走り出す。


「廊下を走るなよー」


 俺は声をかけつつ、歩いて進む。言うことを聞いてくれない下の妹だが、俺達が歩いていれば、アリアも止まるしかない。アリアは曲がり角で止まって、手をブンブン振って「こっちこっち」と手招きしている。

 待たせるのも可哀想なのでスタスタと廊下を進んでいく。


 ライラが窓越しに茶色い瓦屋根の建物を指差す。


「あっちの渡り廊下の先が西館で、家臣や住み込み使用人の部屋があります。部屋数は55で、内訳は4人部屋が15部屋、単身個室が20部屋、家族用が20部屋です」


 ライラもついこの間まで幼女だった気がするが、ちゃんと案内をしている。えらい。


 西館は言わば社宅、窓越しの説明で十分だ。廊下を進み、中央館に入る。


「こちらが、中央館です。ホールや応接室、客間もこちらにあります。リスティ義姉様は一度泊まったことがあると聞いています」


「ええ。ほとんど覚えてないけど、一回あるはずです」


 廊下をぐるっと回り各部屋の位置を見てもらう。

 次いで南館へ。


「南館は執務室が中心です。家令のミュズリさんを筆頭に文官達が働いています」


 部屋としては大小の事務室や会議室が並ぶだけ。完全に実務の空間だ。


「と、ガスティーク邸本体についてはこんなところですね。後は別棟とか離れとか、諸々あります」


「案内ありがとう、ライラ。別棟関係はまた今度俺が案内するよ」


 機密区画の別棟を案内するとなると、『品種改良』についての説明になる。長くなるだろうし、それは明日に回した方が良い。


 リスティも「ありがとう」と微笑む。


「分かりました。アリア、部屋に戻ろう」


 妹2人は素直に自室に戻っていく。


 と、ちょうどそこにリタとマリエルさんがやって来た。


「フォルカ様、リスティ様、荷物の運び込みが終了いたしました。よろしければご確認をお願いします」


「分かった。じゃあリスティ、部屋に向かおう」


 4人で廊下を進み、北棟に戻ると階段を一つ上がり、俺とリスティの部屋に入る。今まで俺が使っていた部屋にリスティが一緒に入る訳ではない。結婚にあたって北館内で引っ越しになっている。

 部屋と言っても、寝室2つに書斎2つ、居間1つ、衣類庫などの収納部屋が計5つ、従者侍女の控室にバスルームからなる区画だ。

 ロフリク王国では妻が妊娠中は寝室を分けるので、寝室が2つあるのは標準仕様である。ちなみに風呂は俺の我儘で今回増設した。


 各部屋をさっと確認していく。


 リスティの荷物は問題なく運び込まれていた。一番多いのは衣類で、一通りのものがきちんと揃っている。


 各部屋、家具もきちんと揃っていて問題なさそうだ。


 個人的に一番大切な寝室は、2人で寝ても十分余裕のある大型のベッドが設置されていた。2人用のテーブルと椅子もある。


 寝室の内装は床がアイボリーの絨毯、腰壁がチーク板、壁と天井は漆喰塗りになっている。シンプルと言えばシンプルだ。

 ただ、窓にかかるカーテンはターコイズ色の花柄で、テーブルと椅子にも真鍮製の細工が施されている。壁にはリスティとデートしたときに露店で買った2枚の絵も額入りで飾られていて、部屋全体として殺風景な印象はない。

 変な派手さがなくて俺は良いと思う。


「リスティ、何か要望とかあったら言ってね。大抵の事は叶えられると思うから」


「ありがとう。うん、素敵なお部屋だと思う。ふふ、フォルカとデートしたときの絵だ」


 リスティが微笑む。

 いちゃラブ新婚生活は順調に続けられそうだ。

 王都ガスティーク邸では隔日で子作りに励んでいたが、移動中はしていなかった。なので今夜はたっぷり愛し合うつもりだ。



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