第23話 尋問

 俺達はコライビ内の農民や兵士が暮らす村にいた。村の中心にある屋敷の一室で村長から報告を受ける。


 村長と言ってもガスティーク家直営農場のリーダーなので、うちの家臣だ。綿畑を任されていることから分かる通り、重臣の一人である。年齢は確か40歳、体型は小太りだが目は鋭い。


「報告いたします。拘束した5人は引き離して別々に ”尋問” しています。今のところ全員が『金で雇われた、綿の種と土を盗んで来いと言われた、雇主の素性は知らない』と証言しています。対してこちらは『他の仲間は別の証言をしている、全員の証言が一致するまで尋問は続く』と脅して ”尋問” を継続しています」


 俺はうむ、と頷く。もちろん “尋問” と言っているのは拷問のことである。あまり気分の良い話ではないが、必要なことだ。


「盗みに成功した場合の受け渡しについては?」


 もし雇い主の素性を知らないというのが本当だったとしても、盗みに成功したら『種と土』を引き渡す筈である。


「ティエール王国のトネリズに持ってくるよう言われていると証言しております」


 ティエールは友好国だが、トネリズは少々特殊な地域だ。極めて治安が悪く、領主の評判も最悪。人を送り込むのは厳しい場所だ。


「……そっちから辿るのは難しいな。金で雇われたと言うが、どこで、どんな風に勧誘されたと証言している?」


「はい。全員が都市カーザルバの出身で、そこで勧誘されたと証言しています」


 カーザルバはロフリク王国西部にある中規模都市だ。ガスティーク領からは少し距離があるし、マンジュラ派貴族の領地なのでこちらも調査し難い。国内なので少人数を送るぐらいは問題ないが、勧誘者を突き止めるために本格的な捜査をするとなると、他領での越権行為と攻撃材料にされるだろう。


 何とも嫌な感じだ。賊が捕らえられても先を辿れないように手が打たれている。とは言え……


「実際にコライビに侵入した3人はともかく、俺とリスティが捕まえた2人はゴロツキを雇ったにしては反応が良かった。証言は怪しいな」


 拘束しようとした瞬間の、懐から唐辛子玉を取り出して投げる動きは、滑らかだった。対岸にいた2人が捕まったのは黒幕にとっても想定外な気がする。


「はい。念入りに “尋問” いたします」


「回復が必要なら言ってくれ」


 もちろん慈悲ではない。回復魔法を使えば拷問の強度を上げられる。


「聖水を少しいただければ、大変助かります」


「分かった。容れ物があればすぐ作ろう」


 俺がそう答えると、部屋の隅にいた兵士が退室し、すぐに空の水差しを一つ持ってくる。俺はそれを『聖水』で満たす。


「ありがとうございます。これで危険を減らせます。それと、賊の背後にいる者が諦めたとは思えません。コライビの警備態勢も強化したく、旦那様に進言させていただこうかと思っております」


「そうだな。今回の状況は俺からも父に伝えておこう」


「ありがとうございます。では、報告は以上となります」


「分かった。お疲れ様。下がってくれ」


 そう言うと、村長は去っていく。扉が閉まり部屋の中には俺とリスティ、リタにマリエルさんの4人になる。


「ふぅ。リスティ、ごめんね。新婚早々にこんな騒動で」


「ううん、大丈夫。でも、綿栽培も大変だね」


「うん。ガスティークが綿を国内栽培した手段は秘密にしてるし、栽培方法や土が特殊と思わせるために工作はしているけど、実際は寒さに強い苗のだけだから、盗まれたら作られちゃうんだよね」


 俺はため息をひとつ。


「寒さに強い……そんな綿あったんだね」


「あったというか、作った感じ? うちガスティークでは『品種改良』って呼んでいるのだけど」


 リスティは「品種改良?」と小首を傾げる。


 『綿』はガスティーク家で魔法を駆使して品種改良したものだ。

 この世界にはまだ『品種改良』という言葉はない。畑で採れた作物の中で質の良いものを種として蒔くなどの形で、実態としては品種の改良は行われているが、あまり自覚的ではないのだ。


「ガスティーク邸に付いたら詳しく説明するよ」


 リスティに隠すつもりは全くないが、実際に現場を見せながらの方が説明は楽だろう。


「うん。楽しみにしておく」


「リタとマリエルさんもお疲れ様。さて、とりあえず今日はここに泊まって、明日少し畑を見た後に出発しよう」


 暫くすると、使用人が夕食を持ってきてくれる。

 メニューは川魚の揚げ物に、ソースのかかった茹で野菜、肉入りの麦粥だ。豪華ではないが、川魚はコライビを囲む川で捕れた新鮮なものだ。


 リスティとテーブルを挟んで座る。揚げ物は揚げたてを食べた方が美味しいから、リタとマリエルさんも隣のテーブルで同時に食べて貰う。


 「いただきます」と言って、さっそく揚げ魚を口に運ぶ。骨までサクサク食べられて美味しい。

 リスティの舌にも合ったようで、笑顔で食べている。リスティは王女の割には食のストライクゾーンが広くて、素敵だと思う。


「揚げて塩を振っただけの料理だけど、美味しいね。捌き方とか揚げ具合とか、技があるのかな」


 調理者の技が優れているのはその通りだとして、俺としては、揚げて塩振っただけだからこそ美味しいのだと思う。

 

 騒動で少し予定が狂ってしまったが、別に急いではいない。のんびり進もう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る