第21話 出発
「じゃ、行こうか」
「はい」
俺はリスティの手を引き、4頭立ての馬車に乗り込む。ガスティーク本邸に向けて出発する日がきたのだ。
リスティと共にガスティーク家入りするロフリク王家の家臣はマリエルさんを筆頭に21人、彼女らも一緒に移動する。ちなみに内6人はリスティの治療業務をサポートする、言わば医療スタッフだ。
当然ガスティーク側の人間もいるし荷物もあるので、一行は馬車10台に騎乗した護衛10人とそこそこの規模の集団だ。
「ガスティーク領レミルバは小さい頃に一度行ったきりなので、楽しみです」
二泊三日の行程で、ガスティーク本邸のある都市レミルバを目指す。
普通の貴族の嫁入りだと『故郷との別れ』といった感じになるが、領地を持つ貴族は王都と領地を行ったり来たりして生活するので、リスティの場合は割と気楽である。
馬車が動き出す。俺の乗る馬車はリスティと二人きり、御者はリタが務めてくれている。
「……フォルカ、この馬車凄い。何でこんなに揺れが少ないの?」
リスティが驚きの声を上げる。彼女の言う通り、この馬車は揺れが少ない。もちろん揺れるのだが、一般的な馬車からすれば別格だ。
「つい最近完成した新型で、ベアリングとサスペンションが特製だからね。父さんが魔法で作っているから量産出来ないけど。2号車は王家に献上する予定だよ」
特に父が「これ、要求精度エグいんだけど」と愚痴りながら作ったベアリングはオーパーツ級の逸品だ。
本当は
「これ貰ったら、母様は凄く喜ぶと思う。ありがとう」
「ちなみに窓ガラスは俺の作だよ」
そう言って俺は窓の鎧戸を開ける。ガラス窓越しに王都の街並みが見えた。
固体操作は土属性魔法、液体操作は水属性魔法だが、中間的な性質の硝子は魔法的には液体の仲間らしく、水属性魔法で加工できるのだ。
「うん、流石はフォルカ。透明度が高くて綺麗」
窓ガラスを指でなぞりながら、リスティが言う。褒められて少し嬉しい。
暫くして馬車は王都の城門をくぐり、外に出る。石畳の道が終わり、整備はされているが土の道に変わった。
ノックに続いて御者席側の小窓が開かれる。
「フォルカ様、王都を出ましたので護衛は索敵警戒体制に展開します」
俺は「わかった」と返す。護衛部隊は広範囲に展開して奇襲を防ぐことに注力する。俺もリスティも強いので、不意打ちを防ぐことに主眼を置くのだ。
王都の外側に広がるのは田園風景、今は冬なのでどこか荒涼とした雰囲気がある。遠くには雪を被った白い山々が見える。
「そうだ、ここなら他者の耳はないから聞いていいかな。フォルカの魔力量っていくつ?」
リスティがそう尋ねる。
魔力量とは文字通り、魔法を使う為のエネルギーである魔力の量、RPGゲームで言うところの
魔力量は魔法戦闘における継戦能力に大きく関わる。そのため一種の秘密だ。但し抑止力的な意味もあるので全く隠す訳ではない。俺もリスティも魔力量が1000を超えることは周知の事実である。『戦艦の本当の最高速度』みたいな扱いだと思ってくれれば良い。
「えーと、推定2300」
俺の答えにリスティが目を見開く。
「……もしかしたら2000超えかもとは思っていたけど」
なおこの世界、触れると魔力量を測ってくれる便利なマジックアイテムとかは存在しない。魔力量は『基準魔法』と呼ばれる魔法を何回使えるか、実際に試して測るのだ。魔力量の大きい人間は『十倍魔法』と呼ばれる基準魔法の10倍程度魔力を消費する魔法を使って測るが、それでも多くなると誤差が増える。そのため『推定値』なのだ。
「リスティは?」
「推定1700です」
うひゃぁ。
1700という数値、はっきり言って異常である。俺よりは低いがそれは俺が超異常なだけだ。
300を超えれば大魔力量と言われ、1000を超えると ”サウザンタ” と称される。古代語で『膨大』という意味だ。
「す、すごい」
「いや、こっちのセリフだよ?」
いいや、俺のセリフで合ってる。『聖属性最高位』の魔力量1700はヤバ過ぎる。狩りのときの攻撃魔法構築からして、今のリスティならバナット卿なんて楽勝だ。俺でも戦ったらまず勝てない。
……ってなんか思考が殺伐な方向に進んでる。
「まぁ、魔力トークはこの辺にしておいて。王都も出たし、こっちおいでよ」
俺は自分の隣の席をポンポンと叩く。リスティは今正面に座っているが、横に並んで座っても十分な広さはある。リスティは笑顔で頷いて、腰を浮かせ……俺の膝の上に座った。柔らかくて温かい。いい匂いがする。
「リスティ、大胆だね」
「フォルカがこっちって言うから、来ただけだよ」
リスティが悪戯っぽく笑う。まぁ、新婚だからこのぐらいのいちゃいちゃも許されるだろう。
「ちなみに、コーム王はこんな感じの体勢で交わったまま馬車の揺れだけで達するまでの時間を測ったそうです。手記にはデータが一ページまるまる書かれてました」
……『変態色欲王』何してんだよ。独創的過ぎるだろ。
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