第19話 みんなで狩りに
俺はリスティと
リタ、マリエルさん、ペリステ侯爵家家臣のドナルドさんの3人も同行している。ドナルドさんはアル兄の従者で、顔は本屋のお爺ちゃん、体はラグビー部主将って感じの人だ。
ドナルドさんが馬車の御者をしている以外は、全員馬の背に乗っている。アリアはまだ一人で乗れないので俺の前だ。
馬に乗るので女性陣も今日はズボン姿、髪をポニーテールにしたリスティが可愛い。
のんびり進み、王都近郊の森に到着する。
季節は冬だが、この辺は基本的に雪は降らないし、今日はよく晴れて小春日和だ。
森の入口には小さな湖もあり、そこに流れ込む川もある。狩りだけでなく魚釣りもできる素敵な場所だ。湖の畔に馬車を止め、馬を繋ぐ。
ちなみにこの森は王家の保有する狩場である。建国六家には包括許可が下りているが、普通の人は入れない。
「さて、鹿でも狙うか」
日本人諸君は理解してくれると思うが、食べるため以外で動物を殺めるのには嫌悪感がある。なので狙うのは全て食材になるものだけだ。肉現地調達のBBQのような感じにする予定である。
「そうだな。ドナルド、調理の準備をしておいてくれ」
アル兄の指示に、ドナルドさんが「承知いたしました」と馬車から荷降ろしを始める。荷台には調理器具一式が積まれている。リタとマリエルさんも作業に加わった。
「じゃあ我々は行きましょう」
「「「おー」」」
従者組3人を残し、俺達は森の中へと進む。木漏れ日がキラキラと綺麗で心地よい森だ。
狩りとは言っても、俺の装備はナイフ一本。リスティも同じだ。妹二人に至っては手ぶら。一応アル兄が短弓を持っているが、それだけだ。
獲物はもちろん、魔法で狩る。
「基本任せるぞ、フォルカ」
「うん。アル兄がやると火事になりかねないからね」
アル兄は火属性適性
「鹿ぐらいなら私も仕留められますよ」
と、リスティ。聖魔法は攻撃に関しても強力だ。彼女なら鹿と言わず、象でも熊の魔獣でも一撃だろう。
「そういうことで、攻撃力は十分だ。問題は獲物の発見、ライラとアリアも頑張って」
ライラが「アリアちゃん、一人で行かない!」とそれを追い掛ける。
「騒ぐと獲物が逃げるぞー」
俺はそう呼びかけるが、アリアは聞いちゃいない。そのままアリアとライラの追いかけっこが始まる。
「お姉ちゃん遅いー」
「待ちなさいアリアっ!」
これ、狩れるかな。まぁ、別に何も狩れなくても肉無しBBQになるだけだが。
しかしそのとき、ガサッと音がして、少し遠くの草むらから何かが飛び出した。鹿だ。凄い勢いで逃げていく。
獲物はいたけど、距離があり、木々のせいで射線も取りにくい。ちょっとこれは厳しいかな、と俺が考えているとリスティがすっと手を伸ばした。
流れるような動きで魔力を収束させ、光の矢を作る。
美しい魔法構築だ。
リスティが「えい」と光の矢を放つ。鹿の未来位置に向け魔法は真っ直ぐに進む。
遠距離かつ障害物多数で、相手は移動目標、普通なら命中は望めない。実際、リスティの矢は鹿より少し前を通り過ぎるコース。だが――光の矢は炸裂した。
無数の小さな光の針を散弾銃のように前方に撒き散らす。
鹿の頭部に何発もの光針が突き刺さる。鹿は倒れ、脚をバタつかせ藻掻く。致命傷ではあるが、即死する傷ではない。
そこに2撃目の光の矢が今度は炸裂なしで直撃、首を抉られた鹿は息絶える。
俺の妻、すごっ!
「やりました。これでお肉は大丈夫ですね」
少しだけ得意気な声色のリスティ。
「リスティ様、流石ですね」
アル兄もちょっと驚いてる。リスティは治癒のイメージが強いから、攻撃魔法がここまで使えるのは意外だ。
「リスティ凄い。ありがとう」
俺も素直に称える。皆で小走りに仕留めた鹿のところへ。
「まず血抜きだな。フォルカ、任せた」
俺は「おう」と応じ、鹿の死体に魔力を通す。
哺乳類や鳥類は若干の魔力を有している。体内魔力の阻害効果により、生きている動物の体液に直接魔力で干渉することは難しい。しかし、死体は別だ。
水魔法の『液体操作』を使って俺は鹿の血を抜き取る。
抜いた血は地面に捨て、あっという間に血抜き作業完了だ。
鹿の死体を木から吊るす。このままでも良いが、もう一工程処理をする。
「ライラ、『死』頼む」
ライラが「はーい」と元気よく応えて魔法を発動する。灰色のもやが鹿の死体を包んだ。
木属性派生『死』の即死魔法だ。但し僅かでも魔力を持つ生物には効かないので、鼠一匹殺せない。一見残念な魔法だが、寄生虫や菌は全滅する。腐敗防止や食中毒予防に絶大な効果を有する便利魔法だ。
「鹿は一頭で十分だな。後は鳥か魚でも取るか?」
「そうだね。なら二手に分かれようか。俺はリスティとアリアを連れて鳥を探すから、アル兄とライラで釣りでどう?」
「ん、ああ。俺はそれで構わないが、ライラちゃんもいいか?」
「はい。狩りより釣りの方が役に立てそうです」
話が纏まったので、二手に分かれる。
さて、アル兄はライラに気がある様子な訳だが、父は結婚については本人の希望重視の方針である。
もちろん大貴族、完全自由恋愛とはいかないが、ペリステとガスティークなら家格は近いし、関係も良好だ。魔法適性もライラは大貴族の正妻として十分な水準がある。
今回の狩りでの目標はそれだ。ミッションコンプリート。後は適当に雉でも探そう。
途中飽きてきたアリアを肩車したりしつつ、俺が2羽、リスティが1羽の合計3羽の雉を仕留めた。
狩りを終え、鹿を担いで湖の畔に戻る。コンロや鉄板、テーブルが設置され、すっかり調理の準備は出来ていた。野菜類もリタとマリエルさんが下拵えをしてくれている。
ちょうどアル兄とライラも戻ってきた。アル兄は十匹程の魚が入った籠を持っている。釣りは成功のようだ。ライラは笑顔だし、良い雰囲気な気がする。
全員集合したので、ここからは調理の時間だ。
ドナルドさん指導の下みんなで鹿を解体し、程よいサイズの肉の塊にする。雉も羽根を毟って解体。
調理担当もドナルドさん。丸太のような腕を繊細に動かし、鹿肉に塩を振って、乾燥ハーブもパラパラと。雉肉にも塩とコショウを揉み込む。
肉と野菜を鉄板に並べ、アル兄が魔法でサッと火をおこして、焼きはじめる。魚は串に刺して直火で塩焼きだ。
肉の焼ける香ばしい匂いが漂い出し、待つこと暫し、焼き上がる。マリエルさんが取り分けてくれて、従者組も含め皆でいただく。
まず鹿肉にかぶりつく。野性味のある肉汁が香草の香りと共に口の中に広がる。美味しい。次いで魚、塩加減はバッチリだ。
「しかしアル兄、魚いっぱい釣れたね」
森を流れる川で釣ったのだろうが、大した時間もなかったのに、数えてみたら12匹ある。中々の成果だ。
「ああ、それな。ライラちゃんが『筋力強化』して岩で岩をガツン! とやって浮いてきた」
石打漁だった。前世日本では禁じられていた水中への無差別攻撃だ。でもまぁ、
リスティが「ライラさん、意外と豪快ですね」と微笑む。ライラが「てへへ」と笑った。
ワイワイお喋りしながら、食事を楽しむ。楽しいバーベキューだ。
「そういえば、フォルカ達はいつまで王都に居るんだ?」
「ライラとアリアは明日、両親と一緒に帰るよ。俺とリスティはあと10日ぐらい居ると思う」
「そうか。俺も月末には領地に戻る。次は夏かな。また来ようぜ」
夏の初めには初代国王即位の記念日があり、その時期は国内貴族の多くが王都に集まる。
「うん。次はもう少し規模を増やしても良いね」
ロフリクの夏は日本のように湿度が高くない。初夏、暑くなりきる前の時期なら最適だろう。
リスティのポニテも見れたし、アル兄もサポートできたし、今日も良い日だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます