第18話 結婚翌朝
結婚式翌日、朝食のため家族で食堂に集まった。
「
リスティが一礼する。
昨日両親は俺とリスティがガスティーク邸に戻った後も、延長戦みたいな感じで色々な人と話していた。俺とリスティの結婚に不穏なものを感じている面々に『普通の結婚だよ』とアピールしていてくれたらしい。
向こうも当然「新婦胸ないけど、王家に弱みでも握られたんすか?」なんて聞いては来ない「おめでとうございます。でも驚きました。年齢的にはちょうどいいですが、突然でしたので……」とか言って言外に疑問を呈してくるのだ。こちらも婉曲な表現しかできない。両親は俺の希望にも合った結婚であることを伝えようと、頑張ってくれたそうだ。ありがたい。
そんなこんなで、昨日話す時間はなかったから改めての挨拶になった。
「こちらこそ、どうぞよろしく。要望は何でも言って欲しい。不自由をさせたらレオガルザ陛下に申し訳が立たない」
「気は使わないでね。王家には劣っても、大抵のものは用意できるから」
父と母が穏やかな声で返す。
「ありがとうございます。でも、私はフォルカと居られればそれで……」
えへへ、と朝から惚気るリスティが尊い。
ところでリスティのミドルネーム的な『シャン』だが、これは王位継承権者であることを示す称号だ。
先程の名乗りから分かる通り、リスティは引き続き王位継承権を有する。ロフリク王国の継承法では王の実子は臣下に嫁いでも王位継承権を失わないのだ。
そのうち致命的なお家騒動を起こしそうな制度だが、現状そうなっている。
この辺は国によって全然違い、ティエールは男子最優先だったり色々だ。
「リスティ義姉様、ライラ・ガスティークです。どうぞ、よろしく」
「アリア・ガスティークです。よろしくです」
「はい。よろしくお願いします」
妹達とも挨拶を交わす。二人もリスティとの結婚は歓迎してくれている様子だ。
「さ、食事にしようか」
父が促して、皆でテーブルにつく。
朝食はバターをたっぷり使ったパン、ブルーベリーのジャムに、ハム、ゆで卵、オレンジ。妙に現代日本っぽい取り合わせだが、それはガスティーク家の料理人が俺の好みを学習したからだと思う。
「リスティさん。もし口に合わなければ言ってね。任せて、ステーキでも何でも、すぐに用意させるわ」
母がそう言って胸を張る。たわわな二つの膨らみがポヨンと揺れた。
ちなみに、実際今の王都ガスティーク邸はリスティ受け入れ特別体制になっている。リスティの好みに対応できるよう、多様な食材を仕入れ済みだ。本当に牛ステーキでも、鴨ローストでも、言えば出てくるだろう。
なお、余った分は家臣・使用人が美味しくいただく。
「いえ。朝食は私もこういうのが良いです。美味しいです」
母とリスティは、距離感を探りながら、互いに良い関係を築こうとしている感じだ。
もし関係が拗れたら、王位継承権を持った嫁など
俺はパンにジャムを塗って、いただく。うん、甘みと酸味のバランスがよい。
和やかに談笑しつつ、食べ進めて、ご馳走さま。
家族が増えると食卓も賑やかになる。幸せだ。
◇◇ ◆ ◇◇
「ほ、本日もよろしく、お願い、します」
輸送業者さんが、ガチガチに緊張している。日課の『聖水』生成をリスティが見学しているせいだ。
並べられる樽に俺は『聖水』を生成して貯めていく。
「やっぱり水属性は他属性とのシナジーが大きいね。土にも
「単体では微妙な『水属性』の最大の強みだからね」
リスティが言う通り、水魔法はエンチャントと相性が良い。魔力付与は自分で魔法生成した水にしか出来ないので、 “強み” を活かすことができるのは俺のように他属性も使える者だけだが。
いつも通り20樽埋めると、業者さんはブリキ玩具みたいなぎこちない動きで馬車に積み込み、去っていった。
「あそこまで緊張しなくても、と思います」
二人きりになると、リスティがボヤいた。
「平民が第一王女を前にしたら仕方ないよ」
加えて言えば『聖属性10』というのもあると思う。宗教上、聖属性魔法は神聖なものだとされている。結婚式後のプチパレードでは、時々リスティに祈ってる人がいたぐらいだ。
「この後リスティは王城だっけ」
「うん。諸々進めてきます」
急な結婚だったから、リスティが王都を離れ、ガスティーク領入りする準備はまだできていない。なので、王都ガスティーク邸から王城に通う奇妙な生活になる。
「結婚式の日に話してたアル兄……ペリステ家のアルヴィと狩りは大丈夫そう? 忙しければ無理はしないで」
「そのくらいは大丈夫。楽しみにしてるね」
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