第13話 結婚式

 そして、結婚式当日がやってきた。


 空気は冷たく冬の始まりを感じさせるが、空は晴れて澄み切っている。


 俺は父と母と3人で馬車に乗っていた。太陽神を祀る大聖堂の前で馬車が止まる。

 俺は両親に続いて馬車を降り、ゆっくりと聖堂の入口に向かい歩き出す。


 前から国王陛下と王妃陛下が歩いてくる。その後ろに、リスティがいた。


 綺麗だった。純白の絹布に金糸で優美な刺繍が施されたドレス、首元にはガスティーク侯お手製のネックレスが煌めいている。

 本当に、よく似合っている。


 国王陛下、王妃陛下、ガスティーク侯爵侯爵夫人の順で聖堂に入っていく。


 俺はリスティの手を取り、二人並んで聖堂内へ進む。

 中に入るとまず左右に太陽神の眷属を象った大理石の石像が並んでいる。その先には左右の長椅子に参列者達が並んでいた。参列者は殆どが高位貴族だ。


 長い通路をゆっくり進んでいく。石材でアーチ状に作られた天井は遥かに高く、年月を経た暗い色を湛えている。


 参列者達の空気は、何とも言えない感じ。純粋に祝福している者もいるが、少数だ。困惑しつつ平静を装っているのが多数派で、不愉快そうにしているのも幾らかいる。


 大聖堂の正面奥には巨大なステンドグラスがある。山、草原、海と広域の景色を象徴的に描いたそれは、透過光で浮かび上がることを以て、太陽神が今の世界を創り出した神話を暗示しているらしい。


 ステンドグラスを背に立つのは杖を持った初老の男性。ロフリク王国内の教徒を統括する大司教だ。


 俺とリスティは大司教の前まで進み、止まる。両陛下と両親は左右に分かれ俺達の横側に立っている。


「静粛に。陽光の下、式を執り行う」


 大司教が宣言する。


「フォルカ・グレス・ガスティークよ、述べるべきあらば述べよ」


 俺は片膝をつき、息を大きく吸う。


「私、フォルカ・グレス・ガスティークはこの者リスティ・シャン・ロフリクを妻とし、この命尽き、太陽の元へ還るその日まで、守り、支え、共にあることを誓う」


「続けてリスティ・シャン・ロフリク。述べるべきあらば述べよ」


 リスティもドレス姿で器用に膝をつく。


「私、リスティ・シャン・ロフリクはフォルカ・グレス・ガスティークを夫とし、この命尽き、太陽の元へ還るその日まで、守り、支え、共にあることを誓います」


 男女のフレーズは同じである。偉大なる太陽神の前に男も女も関係ないということで、宗教上は割と男女平等なのだ。


「両家に問う。この婚姻を承認するか?」


「レオガルザ・ルゴン・ロフリクは承認する」

「ヘンリク・ストラ・ガスティークは承認する」


 国王陛下と父さんが声を上げた。

 大司教が杖で床をつき、カッと音がする。


「よろしい。陽光の下、誓はなされた。これよりこの男女は夫婦となる。芽吹き多く、幸多きを祈る。供物があればここへ」


 聖堂の聖職者が移動式の祭壇を運んできて、大司教の前に置く。

 祭壇には通常、供物を焼くための火が焚かれている。だが、今日は銀の皿が置かれるのみである。

 王妃陛下と母が籠を持って前に出る。籠の中身は林檎、檸檬、柿といった果実だ。それを銀の皿の上に並べる。


 普通は供物を焼き、それによって生じる『光』を太陽神に捧げるが、今回はより上位の方法が採用できる。


 リスティが立ち上がり、祭壇前に出る。果実に手を翳すと魔法を発動させた。

 果実が小さな光輝く粒に変わり、聖堂を照らしながら上へ登っていく。参列者から感嘆の声が漏れた。白い光の粒は聖堂の天窓から空へ消えていく。


 リスティが使った魔法は光化魔法と呼ばれる聖属性の高位魔法だ。物を光に変えて消滅させる。果実7つ分の質量を光にしたら国が消し飛びそうだが、その辺は魔法なのでよく分からない。

 光化は太陽神に供物を捧げる最良の方法とされるが、聖属性適性9以上の者しか使えないため通常は不可能だ。

 ちなみに葬儀においても光化魔法によるものが最良の埋葬方法である。


「供物は天へと届いた。これにて婚姻の儀を終わる」


 あっさりと式は終わった。通常ならもう少し色々とあるのだが、準備期間の都合でバッサリである。でもこれで十分だと思う。


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