第10話 デート①
結婚式まであと12日。俺は王城の裏庭でリタと共に人を待っていた。天気は快晴、季節の上では冬が近づいていたが、今日は暖かい。
「むしろ一ヶ月しかなくて良かったのだろうな」
結婚式の準備期間、俺は思ったよりは暇だった。
何せ、普通に頑張る程度ではどうにもならないスケジュールだ。本人の意向を確認したり、関係各位と調整したり、そんな作業は不可能である。
なので『無難な結婚式』というオーダーだけが下ろされ、細かな判断の権限は担当レベルに移譲された。そうでなければ不可能だからだ。
結果、俺まで上がってくる確認事項とかは殆ど無し。
「仰る通りかと。準備期間三ヶ月だったら、過労で何人か死んだかもしれません」
今回は『限界まで働き続けて一ヶ月で終わる量』が業務量の上限になり、切り捨てられる仕事は全て切り捨てた。もし時間があれば、その分調整やら何やらの余地が産まれ『限界まで働き続けて三ヶ月で終わる量』まで業務は増えただろう。
仮眠以外はずっと労働、そんな生活でも一ヶ月なら、あまり死なない。でも三ヶ月続いたら死ぬ。
「フォルカさま、お待たせしました」
声がして振り向くと、リスティが早足で近づいてくる。待ち人がきた。隣には侍女のマリエルさんもいる。
今日のリスティは白いワンピースにベージュのカーディガンだ。
「リスティ殿下、時間を作っていただきありがとうございます」
俺は頭を下げ軽く一礼。
「こちらこそ、お誘いありがとうございます」
リスティが笑顔で会釈、今日も可愛い。
結婚式直前ではあるが、暇があるのだ。なら、こなすべきミッションがある。リスティとの関係が良好であることのアピールだ。
ということで、俺はリスティをお忍びデートに誘った。もちろん本当に忍んではアピールにならないので、顔を隠したりはしない。お忍び(笑)のバレバレデートである。
……はい、単に俺がリスティとデートしたかっただけです。
「では、我々は少し離れたところから周辺を警戒します。お気にせずお過ごしください」
マリエルさんが言う。リタとマリエルさんは護衛のために付いてくる。護衛と言っても、俺もリスティも強い。安全確保に必要なのは矛でも盾でもなく、不意打ちを防ぐ目である。
「では、行きましょう。ここからはリスティ、と呼ばせていただきます」
「はい。フォルカ」
リスティの手を取って恋人繋ぎをする。「ふぇっ」と声を漏らして頬を赤らめる姿が可愛い。裏門から城を出る。
リスティの手のひらは暖かくて、スベスベだ。恋人繋ぎ、やはりよい。これだけでデート感が出る。
王城の周辺は貴族街と呼ばれ、貴族や豪商の邸宅が立ち並んでいる。そのエリアの道は全て石畳で舗装され、人通りも少なく静かだ。
二人並んでゆっくり進む。
「とりあえず、真っ直ぐ行って南市場を見ようと思うけど、いい?」
「はい。……そうなると、貴族街の中央通りを縦断することになりますね」
「うん。そうなる」
そう、その通り。大物貴族の屋敷が並ぶ通りを突っ切る野心的なルートである。ちなみにガスティーク邸前も通るし、何なら
俺はリスティとデートできるだけで十分嬉しいが、一応『フォルカとリスティは仲良し』アピールなのだ、誰にも気付かれないと失敗である。
石畳を踏んで、通りを進む。
大きな屋敷には概ね門番が立っている。門番達の中には俺達に「あれっ?」と不思議そうな顔をする者もいる。うんうん、バッチリ。
リスティは少し恥ずかしそうな顔をしているが、満更でもなさそうだ。恋人繋ぎを維持したまま、胸を張って進む。
ファマグスタ公爵邸の前ではリスティが少しだけ緊張した顔をする。まぁ、俺ももしモーゼス殿と鉢合わせたりしたら少し気まずい。スタスタと通り過ぎる。
貴族街を抜け、一般市街に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます