第6話 練習は必要だ

 俺が日課の魔法戦闘訓練を終えると、母に呼ばれた。何だろうと思って両親の部屋に行くと母親とリタが待っていた。


 二人の外には母の付き人をしている中年女性が一人いるだけ。お茶の誘いとかではなさそうだ。


「呼ばれたので来ました。母さん、どうしたの?」


「国王陛下に挨拶に行く日が近付いてきました。一つ練習した方がよいと思うことがあります」


 何だろう? 挨拶の礼儀作法とかはもう覚えて練習もしたけど。


「リスティ殿下との『確認』ですが、当然秘密裏に行われます。知っているのは極僅かな人間だけです」


 俺は頷く。後から勘付く人間が出るのは別として、知っているのは両家合わせても十数人だろう。


「なのでリスティ殿下の服の脱ぎ着をサポートする人員はいません。フォルカがするしかありません」


 あーなるほど。ドレス脱がせて、着せないといけないのか。当日はリスティ殿下も正装だろう。ロフリク王国のドレスはそこまで着付が大変ではないが、それでもリスティ王女が一人で脱ぎ着するのは難しい。練習は必須だ。

 脱がせるのも手間取ったらムードが崩れそうだし、しっかりしなくては。


 リタが一歩前に出て口を開く。


「体型の似ている私が練習台を務めます」


 ……えっと、つまりリタを脱がすの?



◇◇ ◆ ◇◇



 その夜、俺の寝室で練習が始まった。部屋にはリタと俺と、指導役に母の付き人が一人だけ。


 俺はドレス姿のリタの前に立つ。ベージュ色のドレスは、スカート部分に蝶をイメージした刺繍が施されている。セミロングの髪も下ろしていて、いつもと雰囲気が違った。

 リタはポーカーフェイスを装ってはいるが、緊張と羞恥からか頬が少し赤くなっていた。


 控えめに言って、可愛い。


 いや、見惚れている場合ではない。真面目に練習しなくては。当日後悔するのは御免である。


「リタよろしくね」


「は、はい」


 リタに歩み寄る。背中に手を回せるぐらいの距離だ。ここまで近付くことは殆どない。濃緑の瞳が綺麗だ。


「ではフォルカ様、まずは背中側の腰の部分にある飾り金具を外します。その下に結び目がありますので、解きます」


 後ろに回って、指示通りに服を脱がしていく。10程の手順を経て、ドレスを下ろす。リタの肌の露出部分が大きくなる。健康的で綺麗な肌だ。

 ショーツは普通のものだが、胴体部分にはドレス専用の下着を着ている。コルセット程ではないが、身体を締め付けガッチリ固める、ゴツいものだ。


「上から順に紐を解いていきます」


 指示通り、解いていく。この下着、脱がすのは良いけど、着せるのは大変そうだ。


 紐を全て解き、ゆっくりと下着を外す。


 嗚呼、ちっぱいだ。


 この世界には動画も写真もない。幼い頃に乳を飲んだ母は巨乳。ちっぱいを見たのは、転生後初めてだ。やはり小さな胸は美しい。


 尊い。


 跪き祈りたい。

 

 ちっぱいの讃える祝詞を畏み畏み申したい。


 いや、だが今成すべきは練習だ。

 そこで今まで黙っていたリタが口を開く。


「ド、ドレスの脱衣としては以上ですが……下の外し方もご説明だけいたします。3本の紐で固定されており、全て解かなければ脱げません。まず後ろの紐の結び目を解き、左右の切れ込みから引き出します。それで布の一部が下がりますので、左右の結び目が出てきます。両方解けば落ちます」


 リタは平静を装って説明しているが、所々イントネーションが変だ。


「おほん。では着せる工程に移ります」


 先生役の指示が入る。ドレス用下着を着せる作業をしていく。中々に難しい。緩ければ崩れるし、強くし過ぎれば着ている側が苦しい。


 何度も失敗して、ようやく合格。同じようにミスを繰り返し、ドレス本体と、付属する飾り類も着せ付ける。


「最初よりちょっと崩れてるけど、一応完了かな」


「許容範囲かと存じます。ただ、もう少し練習すべきでしょう」


 リタのドレス姿は最初より少しぎこちない印象を与える。どこが駄目なのかはイマイチ分からないが、どこがの紐が緩いのだろう。


「リタ、君が大丈夫ならもう一度いいかい?」


「はい。問題ありません」


 よし、もう一頑張り……もう一役得かもしれない。


 今着せたドレスを更にもう一度脱がしていく。さっきよりもスムーズに作業が進む。


 緊張からか、リタは僅かに汗ばんでいた。鼻から息を吸う、仄かに汗の匂いがした。何をしているんだという感じだが、この世界にまだセクハラという言葉はないし、現世の俺は美少年なので、たぶん許される。


 次はまた着せる作業だ。練習頑張るぞ。

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