第5話 分からなければ試せばいい??

「フォルカ君は二人きりの場でもリスティとの結婚を望む旨、明言したそうだ」


 王城の一室、奥まった場所にある小部屋で、国王レオガルザは述べる。


 部屋には王の外に王妃シャルロッテと王の父である先代国王、腹心の家臣2名の合計5人がいた。


「よかったな。王妃はこうなると踏んでいたのか?」


 先代国王が王妃シャルロッテに問いかける。ガスティーク家への縁談の申し入れは王妃の強い要望を受けてのものだ。


「いいえ。恐らく断られるだろうと考えていました。それでも、リスティがフォルカ君に想いを寄せていたのには気付いていましたから……断られても気持ちの整理にはなると」


「そうか。ま、何にせよ縁談が上手く行けば、非常に好ましいな」


 先代国王は真っ白な顎をヒゲ撫でながら、満足気に笑う。


「ですが、最大の懸念事項は解消したとは言えません。その、結局のところ夫婦として上手くいくのかが……」


 家臣の一人が言い難いそうに、不安を述べる。


「夜の営みか……フォルカ君本人はガスティーク候に対して大丈夫と言っていたそうだが」


「ガスティーク候が嘘を付くとは思いません。しかし、本当に大丈夫かなど本人にだって分からないのでは?」


 貧乳と問題なく行為に及べる男性もゼロではないが、千人に一人と言われる。巨乳女性を挟めば3pなら何とかなる者なら数十人に一人ぐらいはいるらしいが、いずれにせよ少ない。


 もう一人の家臣が続けて口を開く。


「後継ぎに関しては、側室を取れば済む話ではあります。しかしそうなると、ガスティーク家正妻の席を王家が潰したと取られかねません。側室の人選も非常に悩ましくなる」


 側室はあくまで保険、後継ぎは正妻の子が望ましいのは言うまでもない。外部からは『王家が貧乳長女をガスティークに押し付け、正妻の子による継承の目を潰した』と見られるだろう。本人フォルカが乗り気だったと言っても誰も信じない。


 そして、リスティと夫婦の営みが成立しなかった場合、側室の人選も難しい。

 名門ガスティークの後継者を生む『本命』な訳だから『格の高い女性』が好ましいが、そうなると側室という打診ははばかられる。


「その場合は側室にフェリシーを出しても構わんが。別に政略結婚させる予定もないし、あれは姉とベッタリだから喜ぶだろう」


「あなた! 娘の婚姻を適当に考えないで! それでリスティを苦しめたのを忘れたの?」


 王妃が目を吊り上げて言う。続けて家臣も苦い顔で口を開いた。


「もしそうなら、正妻と側室の順番は逆であるべきです。マンジュラ公爵派の動向も不気味です。反対する訳ではございませんが、隙を見せぬよう進め方は慎重に……」


 家臣の苦言は当然だ。王女を側室になど、余程の理由がない限り外聞が悪い。リスティを側室にするなら胸が『余程の理由』になるので許容範囲だが、逆は不味い。


 そこで、先王が溜息をつく。


「懸念は分かる。だが、ここで頭を悩ませたところで ”勃つ” か ”勃たぬ” かなど分からんのだ。なら解決策は『試す』以外にあるまい。儂も一肌脱ごう」



◇◇ ◆ ◇◇



「えっと、王家は本当にそれでよいので?」


「ああ。本人も同意しているという」


 リスティ王女との縁談に関して王家から驚きの提案が来た。本当に夫婦の営みが成立するか不安だから『事前に試そう』というのだ。つまりは婚前交渉して、成功したら結婚成立という話らしい。


 順番だけの問題なので、俺は気にしないが……


「しかし、その、もしデキたら世間体の良くないことになりませんか?」


 この世界、今のところ妊娠後の婚姻を『授かり婚』と好意的に見てはくれない。

 コンドームなどという便利なものはないのだ。一応避妊用の中に詰める丸薬が出回っているが精度は低い。

 外出し? AV男優でもあるまいし、そんなの出来る自信はない。


「その場合を考えて『確認』の翌日に婚約の発表、一ヶ月後に結婚式という日程になる。一ヶ月なら早めに産まれたで済む」


「それはそれで、異常なスケジュールだと叩かれませんか?」


「先代国王のダミアン陛下が体調を崩して『いつまで保つか分からん、孫の結婚式が見たい。すぐに式を挙げてくれ』と我儘を言ったことにするらしい」


 つまり先王が仮病を使ってくれると。良いのかそれ? 俺は駄目だと思うが……でも王家が良いなら良いか。


「なるほど。それなら一応の理由にはなりますね」


「ガスティークとしても有り難い提案ではある。お前を信じてはいるが……しかしな」


 確かにフォルカは童貞、『できます』と言われても信じられないのは分かる。『岩瀬 透』は一応ギリギリ童貞ではなかったが、そんなことは知る訳がない。


「分かりました。時期はいつ頃に?」


「お前の『製衣の挨拶』のときに行う。タイミングが丁度いいからな」


 『製衣の挨拶』というのはロフリク王国の慣習だ。伯爵以上の貴族の長男が、成長期が終わった頃に金をかけた服を仕立て、それを着て国王に挨拶に行く。成人の挨拶的なものである。俺も既に仕立てを依頼済みだ。

 そこから一月後となると、式は冬の初め頃になる。例年、先代国王の誕生日を祝って小規模な夜会が開かれる時期だ。高位貴族は元々王都に行く予定を立てているだろう。


 そうか、服が仕上がる頃にはリスティ王女の、あのちっぱいを……いかん、股間が反応しそうだ。鎮めねば。


 この世界の男性はこういうとき貧乳女性を思い浮かべるらしい。効果は絶大で1秒でミニマムと言う。便利な連中だ。

 もちろん俺には使えないので、ここは定番母の顔。前世の母を思い出す。


 ……母さん、先立った上にこんなときだけ思い出して、マジすまん。

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