第3話 王様は首を傾げ
ガスティーク侯爵、ヘンリク・ストラ・ガスティークは王城の奥にある小さな部室にいた。テーブルを挟んで座るのはロフリク王国の国王レオガルザ・ルゴン・ロフリク。部屋には二人きりだ。
「ヘンリク、待たせたな」
「いや、急にすまない。時間を作ってくれてありがとうレオガルザ」
同じ歳の二人は幼い頃からの友人だ。二人きりなら互いに名前呼びてある。
「単刀直入に、この間の提案の件だ」
「リスティとフォルカ君の縁談のことだな」
ヘンリクは「ああ」と頷き、一度深く息を吸ってから口を開く。
「本人に話をした。息子は非常に前向きだったよ」
「そうか……あの胸では厳しいのは当然だ。仕方がない。不躾な縁談を持ち込んで申し訳なかった。ガスティークを軽んじる気はないのだ。何とか聖10の血を繋げないかと。それに、あの子がな……」
「いや、レオガルザ、話をちゃんと聞け」
国王レオガルザは小さく首をかしげる。
「うちの息子は前向きだと言ったのだ」
「前向きとは、リスティとの結婚に前向きと言うことか?」
「そうとしか取れんだろう」
「……本当に?」
「悪質な冗談は言わん」
「そうか。流石はヘンリクの息子、聖属性10の血を残すことの利益を理解してくれたか。しかし、心労をかけるな……どんな埋め合わせをすればよいやら」
「いやーそれが……俺も驚いたがフォルカはノリノリだぞ」
国王レオガルザは大きく首を傾げる。
「大丈夫か?
リスティの妹、第二王女フェリシーは順調に胸が育っている。
「間違えている様子はなかったぞ。胸の大きさも正しく認識していた」
「本当の本当に?」
「本当の本当だ」
国王レオガルザは人間の関節の可動域限界まで首を傾げる。バキッと音がした。
「大丈夫か?」
「痛い」
「だろうな……」
ヘンリクは「こほん」と咳払いをする。
「私としても両家の婚姻は利のある話だと思っている。懸念点はあるが、それが解決できればお迎えしたい」
「わかった。もし上手くいかなくともフォルカ君の経歴に傷が付かぬよう、慎重に進めさせて貰う」
◇◇ ◆ ◇◇
俺は着替え終わると鏡の前に立ち、自分の姿を確認する。
今日は準正装をしている。学ランを折り襟に変えて豪華な刺繍を施したものをイメージすれば近い。ロフリク王国男性貴族の標準的な装いだ。
一際目立つのは胸元の蔦をモチーフにした
うん、前から見る限り問題はない。
「リタ、変なところはないか?」
その場でくるりと回ってみせる。
「はい。お似合いです」
ここは王都にあるガスティーク邸、これから王城に行く。
王家に対し縁談に前向きな意向を伝えたところ、まず一度当人同士の面会をしようという話になったのだ。父曰く、何か齟齬が起きていないか確認したいのだろうとのこと。
どうやら王家側も俺が結婚に積極的という事態は想定外らしい。父は「国王陛下は首を傾げ過ぎて痛めたぞ」と、珍しくセンスのない冗談を言っていた。
「よし、頑張ろう」
俺は少し緊張していた。順当に行けば妻になる女性に会いに行くのだ。面識のある相手とは言え話すのは久しぶり、変な空気にならないと良いのだが。
「その、特に頑張る必要もないのでは? 場の空気は先方が整えてくれるかと」
リタが淡々とした口調で言う。
確かに向こうから持ちかけた縁談、それも婚約が破棄されての代打だ。例え王家相手とはいえ、気を使うべきはあちらという考えは理解できる。
「かもしれないけど、なるべく好かれたいからね」
俺は純粋にリスティ王女と仲良し夫婦になりたい。目指すは甘々いちゃラブ生活だ。
「……フォルカ様なら大丈夫ですよ。さ、馬車の準備もできております」
俺は屋敷から出て、門の内側に停まった馬車に乗り込む。父と母は先に車内にいた。
「フォルカ、似合ってるわね」
母が微笑む。確かに、きちんと着飾った俺は様になっていると思う。
「そう? よかった」
口では素っ気なく返しつつ、心の中で ”貴方に美形に産んで貰えたお陰です” とお礼を言う。
父が御者に「出せ」と命じ、馬車が走り出す。王城に向け出発だ。
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