第2話 全力応諾
「「お父様! おかえりなさい!」」
「父さん、お帰りなさい」
「貴方。お疲れ様」
王都から帰った父を、家族みんなで出迎える。
「ああ。ただいま。皆元気そうでよかった」
端整な顔を喜びに崩して、父が笑う。
「少し休んだら皆で夕食にしよう」
父が着替えて一息つく時間だけ置いて、家族で食堂に集まる。メニューはサラダに始まり、ラムシチュー、大きな海老の焼き物、野菜の素揚げ。どれも父の好物だ。
談笑しつつ、和やかに夕食が進む。やはり家族が全員揃うのはよい。
「ところでフォルカ、少し話がある。私の執務室に来てくれ」
食事が終わりかけの頃、父がそう切り出してきた。改まって何だろうか。
「はい。わかりました」
俺は素直に頷く。
最後にお茶を飲んで食事を終え、そのまま父の執務室に移動する。部屋には父と二人きり、執務室にある応接用のテーブルに向かい合って座る。
俺は少し緊張していた。態々執務室に呼び出して話をされる事など殆どない。前回は……ポメイス王国との戦争勃発を報らされたときか。
「安心しなさい。戦争は起きてないよ」
顔に出ていたらしく、父からフォローが入った。よかった。グリフィス王国でも攻めてきたかと心配した。
「まぁ、何だ。改まって呼び出したが、単なる確認というか、そんなところだ」
妙に歯切れが悪い。どうしたのだろう?
とりあえず「はい」と頷く。
「リスティ王女殿下は分かるよな?」
俺は「もちろん」と返す。
リスティ・シャン・ロフリク、知らない訳がない。自国の第一王女だし、何度も会ったことがある。対ポメイス戦争では一緒に戦闘に巻き込まれた仲だ。
聞くまでもない質問はある種のクッション言葉だろう。何がそんなに言い難いのか。
「リスティ殿下はファマグスタ公爵家のモーゼス殿と婚約関係にあったが……駄目になった」
少し考えて、理解する。リスティ王女殿下は容姿端麗、人柄もよく、聡明な人物だ。何より魔法に関しては我が国唯一の聖魔法適性
「……胸ですか?」
リスティ王女の胸は小さい。カップでいけばAかBだ。
「ああ。あの胸では厳しいと、ファマグスタ側からの申し出で婚約は破棄された。公爵の先走りが裏目に出たな、これで当分は王家に頭が上がらん」
婚約はファマグスタ公爵家側の猛アタックに王家が折れる形で結ばれたものだ。婚約が成立したときリスティ王女はまだ8歳だった。当然、二次性徴前の婚約には貧乳リスクがある。だが王妃陛下はうちの母を上回る爆乳、実の娘が貧乳になるとは公爵も思わなかったのだろう。
そんな理由で王家との婚約を破棄できるのかと疑問に思うだろうが、この世界の男性は基本的に貧乳相手だと勃たない。目を瞑って巨乳女性を想像しても無理だという。俺には理解不能だが、そうらしい。
つまりは子供が見込めないのだ。公爵家としては婚約破棄を乞うしかない。
ここまで極端な気質が形成されるとなると、進化の過程のなかで『貧乳と交尾するオス』が生存上極めて不利な時期があったとしか思えない。
恐らくウィルスだと思う。貧乳がキャリアーとなり、男性に感染すると死に至らしめるか、又は生殖能力を奪う。そんなウィルスが長期に渡って猛威を振るったに違いない。長い年月をかけ
「……それで俺に話とは?」
「うむ……それでな、まぁ代わりにお前はどうかと話が来てな。側室、妾は何人作っても良いから貰ってくれないか、と」
?? 歯切れの悪い言い回しのせいで、すぐに理解が出来ない。
あーえっと、モーゼス氏との婚約が破棄されたから、代わりに俺がリスティ王女と結婚して欲しいと申し込まれた、と。
「王家としても聖魔法10の血を絶やしたくはないからな。一縷の望みをかけての提案だろう。胸が小さくても
工夫とは巨乳を交えて3pとかそういうやつである。
父の言葉が続く。
「まぁ、何だ。王家の手前、一応お前に聞かずに断る訳にもいかないから、話しただけだ。王家からの縁談と気に病む必要はない。リスティ殿下は不憫だが、あの胸ではな」
父の言葉を半ば聞き流し、俺は考える。
リスティ王女は綺麗だ。深い蒼の瞳に、サラサラと煌めく金色の髪、高い鼻に薄紅を引いたような唇。背は女性としてはやや高めで、162センチぐらい。文句なしの美少女である。
そして、魔法のあるこの世界、配偶者の魔法資質は重要だ。魔法の資質は属性ごとに
貴族としては気になる政治面、ここで婚約を受ければ王家の無理な要請を飲んだことになる。ファマグスタ公爵家のチョンボをフォローした形にもなる……
えっ!? つまり、スレンダー完璧美少女と結婚すると王家と公爵家に恩を売れる!?
最高かよ!
「受けましょう!!!」
俺は身を乗り出し、大きな声で言った。
「えっ?」
父がポカンとしている。
「リスティ殿下との婚約、是非受けたいです! 全力で応諾しましょう。」
「あの、その、リスティ殿下はもう成長期も終わりの年頃だ。ここから胸は大きくなるまい。無理をするな」
「胸以外は完璧です。大丈夫です。俺は勃ちます! ヤれます!」
父の前で叫ぶ言葉ではないが、俺も少し興奮していた。
「本気、なのか?」
父が困惑に満ちた表情で聞いてくる。貧乳との結婚に前向きなのが、余程変らしい。まぁ、この世界がそういう世界なのは知っている。
「父さん、リスティ殿下は聖属性10ですよ。ただでさえ希少な聖属性の、最高位。そして人格面も能力面も評判は極めて良い」
父に頭突きしそうな勢いで身を乗り出す。過去一番の圧で語る俺に、父の困惑は続く。
「そ、そうだな」
「そうです!」
「……一度落ち着こう。本当にリスティ王女殿下を妻にするのか?」
「はい。私も嬉しいですし、ガスティーク家の利益にもなります」
「お前の言う通り、胸以外は非の打ち所のない女性だ。歳も近いし、大魔法使い級同士の結婚となれば次世代にも期待が持てる」
「ええ。それに、私ならモーゼス殿と比べても格落ち感は少ない。王家としても好ましいでしょう。ファマグスタ公爵もホッとするのでは」
王家を除く国内貴族の序列においてファマグスタ公爵家は2位、ガスティーク侯爵家は5位だが、モーゼスさんの魔法適性『風6、土7』に対し俺は『水9、火8、聖6、風6』だ。家の格と魔法資質で相殺と考えれば同格の結婚相手と言えるだろう。
「一つ言っておくが、私はモーゼス殿よりお前の方が上だと思っているぞ。12歳で歴戦の大魔術使い、バナット卿を討ち取った実績は大きい。加えてガスティーク家は経済的にも潤っている……お前なら縁談は選び放題だぞ?」
どうせ選択肢は多いが全員爆乳なのだ。貧乳美少女からの縁談は最初で最後かもしれない。
別に大きい胸が嫌いな訳ではない。しかし俺が好きなのは小さな胸だ。
「そうですか。ならリスティ殿下を選びます」
何なら今から王都まで走ってこっちからプロポーズしたいぐらいだ。
「そこまで言うなら前向きな回答をするぞ。本当に良いのだな?」
俺は「はい」と大きく頷いた。
その3日後、領地で最低限の仕事だけ終わらせて、父は再び王都へと向かった。俺の意向を伝えてくれるそうだ。頼んだ、父よ。
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