貧乳教徒、胸が小さいと女性扱いされない世界に転生する 〜 ちっぱいハーレムできました。
じゃん・ふぉれすとみに
第1話 ある日の朝
朝、俺は鳥の鳴き声で目を覚ました。ベッドの上で身を起こす。深呼吸をすると木々の香りが鼻腔を満たした。
季節は晩夏。朝は涼しくて心地がよいが、寝汗をかいたようで少しベタベタする。
俺は素足のまま立ち上がると、魔法を発動する。水を生成して操作し、身体を撫でるように這わせて汗を流す。水は魔法で完全に操作しているため服に染み込んだりはしない。汚れた水を排水口に捨てて、プチシャワー完了だ。
「ふぅ、さっぱり」
心地良さについ独り言がでる。水魔法が使えて本当によかったと思う。お陰で前世、現代日本と変わらない衛生環境が実現できている。
……日本、懐かしい言葉だ。
俺、フォルカ・グレス・ガスティークは『岩瀬 透』という日本人だった。
そこそこの大学を出て、ホワイトでもブラックでもない会社に就職し、毎日通勤電車に揺られていた。
それがある日、繁忙期の残業を終えて終電で帰宅した後、強烈な目眩と吐き気に襲われた。一人暮らしのアパートの一室で動けなくなり、朦朧とする頭で ”救急車を呼ばなくては” と思ったところまでは覚えている。
そして、気が付いたら赤ん坊だった。状況的に死んで生まれ変わったのだろう。もちろん夢を見ているだけの可能性もあるが、あれから16年以上が経った。夢にしては長すぎる。
壁の鏡を見る。映るのは金髪に蒼い瞳の、自分で言うのも何だが、美少年。身長も平均より少し高いぐらいで、程よく伸びている。モブ顔だった前世とは大違いだ。
コンコンとドアがノックされた。「どうぞ」と返すと扉が開き、家臣のリタが入ってくる。
「フォルカ様おはようございます。お召し物をお持ちしました」
「ありがとう。自分で着るからそこに置いておいて」
俺の指示にリタは「承知いたしました」と軽く頭を下げる。
リタは俺の身の回りのことを担当してくれている女性だ。年齢は19歳、髪と瞳は濃緑。すっとしたシルエットの美人さんである。
服装は濃紺のワンピースに生成り色のエプロンという、メイドっぽい組み合わせだ。
「朝食のご用意はできております。奥様達も間もなくいらっしゃるかと」
「分かった。行くよ」
俺はササッと服を着替える。白いシャツに紺のズボン、どちらも素材は綿。今日は人と会う予定もないので、動き易いラフな格好だ。
ドアの前で靴を履き、屋敷の廊下を進んで食堂に向かう。
「フォルカ、おはよう」
「おはよう。母さん」
扉の前で母と会った。ちょうどタイミングが同じだったようだ。
母は切れ長の目が印象的な金髪碧眼の巨乳美女である。……いや爆乳かもしれない。カップでいけばI以上あるのではないか。この世界の女性は胸が大きい傾向にあるが、それでも大きい方だ。
俺の転生した世界は、何というか、『巨乳至上主義』だ。胸の大きな女性が好まれ、貧乳は強く忌避される。母はかなり魅力的な女性ということになるだろう。
食堂に入り、席に座る。チーク製のテーブルには真っ白なクロスが敷かれている。ゆったり10人は座れるサイズだ。
再びドアが開き、二人の少女が食堂に入ってくる。妹のライラとアリアだ。元気よく椅子に座ると、母譲りの金髪がぴょんと揺れた。
ライラは13歳でアリアは10歳、可愛い俺の妹である。背丈は違うが二人の顔はそっくり。基本的に母似なのだが、僅かにタレ目なところは父親似だ。
ちなみにライラの胸は既にEカップぐらいある。将来は母を越えるかもしれない。
使用人が朝食を出してくれる。内容は野菜のスープにパンとチーズ。シンプルだが、朝にはこのぐらいが丁度よい。
「さ、食べましょ」
母の言葉で食事を始める。パンをちぎってチーズと共に口へ運ぶ。うちのパンは今日も美味しい。
「そうだ。夕方、ヘンリクが帰ってきますよ」
思い出したように、母が言う。ヘンリクとは俺の今世での父親、ヘンリク・ストラ・ガスティークのことだ。ここ暫く王都にあるガスティーク邸に滞在していたが、帰ってくるらしい。
「父様帰ってくるの? やった」
ライラが嬉しそうに言う。
父は穏やかで優しい、家族思いの人である。
ガスティーク侯爵家は『建国六家』に数えられる歴史ある大貴族、俺はその長男だ。それにも関わらず、日本の庶民だった俺がストレスなく暮らせているのは、父の気質のお陰だろう。
裕福な家に優しい両親、可愛い妹。転生先としては大当たりを引いたと思う。
神がいるなら感謝である。
……いや、この世界の男達が巨乳至上主義である点だけは、貧乳教徒として苦言を呈したい。神様、ちっぱいは良いぞ。
◇◇ ◆ ◇◇
朝食を終えた俺は日課を果たすため、庭へ移動する。
そこには使用人と輸送業者が待機している。
「フォルカ様、本日も準備は整っております」
そう報告する男性使用人の前には大きな樽が20個程並んでいる。中は全て空だ。
「わかった。早速始めよう」
何をするのかと言うと『聖水』作りだ。もちろん放尿のことではない。浄化魔法と回復魔法をエンチャントした水を生成するのだ。
俺は魔力を練り、魔法を構築する。水魔法と聖魔法を複合行使し、聖魔法の込もった水を生み出す。生成した『聖水』は樽に流し込んでいく。
この『聖水』は非常に便利だ。怪我人の傷口にかければ消毒した上で傷を塞いでくれるし、飲めば食中毒なども治療できる。
込めた魔力は時間経過で徐々に抜けてしまうため、あまり日持ちはしない。だが俺が毎日作っているので領民はかなりの恩恵に預かっている。
作業を続け、やがて全ての樽が一杯になる。
「終わった。いつも通り出荷してくれ」
輸送を担う業者のおっちゃんが「承知いたしました!」と頭を下げる。
「おい新人! お前の命よりずっと貴重なものだ、心して運べよ」
輸送業者のおっちゃんが新人らしい若い男性に激を飛ばす。確かに初めて見る顔だ。
『聖水』は水魔法と聖魔法の両方に適性のある魔法使いにしか作れないので、貴重ではある。
「確かに貴重なものだが、気張り過ぎると却って失敗する。真面目に取り組んでの失敗なら処罰はしないから落ち着いて運んでくれ」
新人くんが緊張に押し潰されそうな顔をしていたので、フォローした。新人は「は、はい」と言って作業に取り掛かる。
暫く見守っていたが、樽は無事に運ばれていった。
『聖水』は半分がガスティーク家の領内、もう半分が領外に出荷される。領内には格安で卸しているが、領外分だけでも中々の収入になっている。俺の大切なお小遣いだ。
朝の『聖水』作りを終えたら事務仕事だ。俺は自分の部屋に戻って机に向かう。
領地経営は基本的に両親がやっているが、部分的に俺も手を出している。
「フォルカ様、紡績所から会計書類が届いています。一応私の方で検算はしておきました」
リタが書類を渡してくれる。彼女は事務処理能力も高い。綺麗で優秀な女性が補佐に付いてくれて、幸運だと思う。
報告書に目を通す。おかしな点はない。運営は順調なようだ。
その後も製鉄所の報告書、農場からの陳情書と次々処理していく。前世でサラリーマンとしてそこそこ頑張っていたので、この辺りは得意だ。
そして、ちょうど事務仕事が片付いた頃、父が帰ってきた。
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