第3話 俺最強なんだが?
◇
「まぁああああた、やったんですか! やりやがったんですか! もうこれで4回目ですよ! そろそろ屋敷のバランスがおかしくなって崩れますよ! 死にますよ! 死にたいんですか? 死にますか? 一回死んだほうが良いんじゃないですか?」
「ご、ごめん……つい……」
でも、主人に対してそこまで言わなくても……。ちょっと傷つくじゃん。
「お嬢様の魔法好きは知っていますが、撃つなら訓練場でしてもらえますかねッ! お嬢様が粉々にした部屋を片付けるのは私なのですよ!!」
「本当にごめんなさい……」
「しかも今回、何撃ったんですか? 全く廊下まで崩壊しかけてますよ」
「と、『突風』」
「『突風』!? 突風でここまでなるならもう貴方は魔王になれますよッ! 絶対! ぜーたい! 上級魔法を覚えても部屋で使わないでくださいねッッッ? そんなモノ使った日にはこの街の住人全滅しますから」
「善処します……」
「あーもう! 『洗浄』『洗浄』『洗浄』『洗浄』『洗浄』! 『クリーニング』!」
メイド少女は何発も何発もスキルを放って部屋も掃除している。スキルで掃除するんだ……と思いながらそっと見ているといつの間にかなにもない更地できれいな部屋に変わっていた。
「はあ……はあ……はあ……も、もう……魔力が……残って……いません……死んじゃいそうです……二日酔いの気分……」
「だ、大丈夫? 本当に吐きそうな顔してるけど」
俺は倒れているメイド少女を上から覗き込んだ。
「お嬢様がやったんでしょうが! ……はあ、まあ良いですよ。許します。もう動けませんし仕事サボれてラッキーってやつです」
「…………」
「なんですか? その目は」
「いや、別にー」
「はあ、7歳でこれだけの力があるなら魔王も討伐できちゃうんじゃないですかね? 将来的に」
ここで新情報、今の俺(きーたん)は7歳らしい。
「そこまでは強くないよ」
「いやいやいや、『突風』でここまでできる人が何言ってるんですか。仕方ないですね……見ててくださいね? なけなしの魔力で『突風』を放ってあげます。『突風』!」
そう叫ぶと指先からヒュン――と風の斬撃のようなものが出た。そして、掛けていたブラシを四つ切にして消えていった。たしかに、俺がゲームをしていた時によく見た『突風』だ。
「本来はこのぐらいの威力なんですよ。敵の足とか手を狙って敵をひるませる程度の魔法。それをキリカお嬢様が使うと先ほどみたいに部屋一つ崩壊させてしますのです」
「なんでなんだろう? 普通はここまでならないよね?」
ゲームのときもこんな事はなかった。まあ、きーたんだし、仕方ないか。うん。そうだ。
「ええ、なりません。つまりですよ。キリカお嬢様は……膨大な魔力を持っているんじゃないですか? ただ単にその魔法に使う魔力量が通常の10倍……いや100倍多く使っているのです。そうじゃなければここまで強くありません」
「そ、そんなことってあるのか? 普通魔法を使うのに使う魔力って決まっているじゃないか。『突風』なら20って」
「そうですよ。ですが私が先程放った突風は魔力12しか入ってません。というかそんだけしか私に残っていなかったからです。ですが、それでもしっかりと放つことはできたじゃないですか。見ましたよね?」
「つ、つまり放つ魔法に魔力量の制限はない……っていうことなのか?」
「そうだと思います。過去に勇者御一行にいらっしゃった、伝説の魔術師グランベル・グランツェはただ一つの魔法だけで先代の魔王と戦いました。準2級魔法『煌きのグランツ』だけで。恐れ多いことですが『煌きのグランツ』だけで魔王に通用するとはとてもじゃないですが思えません。つまりはそういうことなのです」
「なら、魔法に使う魔力の制限をすることで部屋でも魔法を使っていいってことだよね!」
「そうじゃなああああああああああい!!!!」
これまた、部屋に来たときと同じぐらい大きな声で叫ばれた。
耳がキンキンする……。
がくんと地に手をつけて絶望するメイド少女。
何がそんなに不満だというのか。制限して放つなら良いじゃないか。
「はあ、はあ、わかってない! キリカお嬢様はわかっていない! 私が言いたかったことは同じ『突風』でもお嬢様が次に全力で放ったら恐らくこの都市は壊滅するってことです!」
あー。なるほど。つまりこのメイド少女が言いたいことは
「無闇やたら魔法を放つなって言いたいってことか」
「そういうことです。できれば初級魔法も使ってほしくありません。使うなら魔王城にでも放ってください。たぶん魔王もろとも死にます」
「魔王弱すぎじゃね?」
「貴方が強すぎるんですよ!! 規格外です。はっきり言って歴戦の勇者と比べても引けを取らないレベルです! でも、強すぎるがゆえに魔法を制限しないといけないんですよ!」
「なんで?」
「世界が崩壊するからですよ! 魔王も恐れますよお嬢様の存在は……」
はあ、とメイド少女はため息をついた。
「まあ、それはそれとしてお嬢様。剣術の訓練、今日もサボるんですか?」
「剣術の訓練? なにそれ?」
「とぼけないでください。いつも、いつも、お嬢様が嫌で逃げてるやつですよ。まあ、県なんてなくてもお嬢様は十分過ぎるくらい強いんでいらないとは思いますが……」
まて、これはチャンスなんじゃないか? 今のうちに剣術もマスターしているとオールランナーになれて主人公の面倒にならなくてすむ……これは
「やろう」
「はあ、全くやっぱりサボるんで……今なんとおっしゃいましたか?」
「え? だからやるって」
「すみません幻聴が……もう一度お願いします」
「だ・か・ら! やるってば」
「え、ええええぇぇぇぇぇ!!」
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