第8話 天真爛漫美少女は可愛いので平気っぽい?

「ちーちゃん!」

「はいはい、ちーちゃんですよー」


 千種ちぐさが駆け寄ると、女子に対しては強張り気味になる里琉の表情がぱぁぁぁと一気に明るくなった。


 それを見ると、兄妹仲の良さが伝わってきてほっこりした雰囲気になる。

 現に、俺の顔も自然とほころんでいた。


「うんうん。あにぃが元気そうでウチは嬉しいよ〜」

「僕は元気だよー。1限目の数学の授業はちょっと難しかったけどね」

「そうなの? ウチのクラス、数学は3限目で同じ内容やるだろうし、家に帰ったら2人で復習だね」

「うんっ」


 里琉が嬉しそうに頷くと、それを見た千種も同じように何度も頷く。


 いや、これは微笑ましいを超えて、尊い光景だな。

 そう思うのは俺だけじゃなかった。


「甘瀬ツインズが今日も尊い……」

「ずっと傍で見守っていたい……」

「これはもう、国宝級」

「いや、もはやギネス認定すべき」


 周りをちらっと見渡すと、女子たちの顔はうっとりとしたものに。

 中には、まるで浄化されたかのように清々しい表情を浮かべている子や胸の前で合掌している子もいる。

 

 貞操逆転世界の女子って、何かとリアクションが大きいから見ていて面白いよな。


「千種おーす!」

「いーくんおはようっ」


 俺が声を掛ければ、千種は元気よく返してくれた。

 そして、自然な流れでハイタッチ。


「にへへ〜」


 千種は愛嬌のある笑みを浮かべるのだった。


 千種はなんというか、前世では男子を勘違いさせていそうな距離感が近いタイプの美少女だ。


 この世界でも、明るい性格と持ち前のコミュ力で女友達がたくさんいる。


 一方で、その積極的な性格は男子からはあまり好かれていないと本人は言うが……里琉も俺も、千種と一緒にいるのは楽しいし、結局は相性の問題だよな。


「千種は今日も元気でいいなっ」

「それはこっちの台詞でもあるよ、いーくん」

「でも、千種は可愛いも備わっているさらそっちの方が一枚上手だな」


 なんて素直な返しをすれば、千種は「またまた〜」とにこにこっとした笑みだったのも束の間。


 笑顔のままスススーーっと俺から少し距離を取ったと思えば、彼方と顔を寄せ合って内緒話を始めた。


「ねぇねぇ、なーちゃんっ。いーくんがまた無自覚なこと言っているよ……!」

「まあ、平常運転の彼だね」

「平常運動が相変わらず平常じゃなよ! 暴走車だよ、煽り運転だよ! 女子に対して可愛いって言う男子は絶滅危惧種って言われているのに、いーくんはそれを呼吸と同じレベルでしちゃっているよっ」

「でも一季はああ見えて本当に思っていることしか口に出して言わないタイプだからね」

「……ということは?」

「素直に喜んでいいと思うよ。ボクも千種のことは可愛いって思っているし」

「なーちゃんっ。好き〜!」


 小声なので2人が何を話しているのかは終始分からないが……千種と彼方が抱き合ったことで周囲から黄色い歓声が上がった。


 これはこれで、百合っぽくて尊い光景だな。


「貴方たちが揃うと目立つわねぇ。まあ、その中心げんきょうは……」

「ん? なんだ?」

「なんでもないわよ」

 

 腕組みしていた俺を氷川はジトっとした瞳で俺を見た後、軽くため息をついた。


「ねぇねぇ! 学校近くに美味しいスイーツ屋ができたみたいだから、放課後みんなで行かない?」

 

 内緒話を終えて元気いっぱいに戻った千種が俺たちを見回しながらそう言う。


 と、すぐさま彼方が口を開いたと思えば。


「こーら、千種? そういう話は大勢の前で。それも、他クラスでするもんじゃないよ。大変なことになるから」

「そうなの? じゃまたグループチャットの方で言うね〜」

「全く……千種も相変わらずね」


 氷川もやれやれといった感じで口を挟んだ。


「しーちゃん、それって褒めてる?」

「そうね。彼と違って褒め寄りよ」

「なら、嬉しい〜!」

 

 にへー、と頬を緩める千種に氷川は口角を上げた。


 って、じゃあ俺のことは毎回褒めてないってこと!?


 と、ここで次の授業の予鈴が鳴った。

 友達と話しているとほんと時間経つのが早いよなぁ。


「じゃあまた来るね、一季」

「あにぃもまたね〜」

「おーう、またな〜」

「またね、2人ともっ」

「次はもう少し穏やかな時間がいいわね」


 彼方と千種は自分の教室へと戻ったのだった。


 学校生活ではこの5人で過ごすことが多い。

 そこには恋愛感情なんて絡んでいないし……いや。俺以外はみんな可愛いし、恋人ができるのは時間の問題だ。


 男女比1:10だし、俺もあわよくば可愛い彼女が欲しいなぁー。



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