第7話
「今日の授業はこれで終わります。復習はしっかりしておくように。それと……休み時間だからといって羽目を外さないように」
念を押すようにクラス全体を見回しそう言った後、メガネ美人数学教師はチャイムが鳴るのと同時に教室を出た。
「やってきました、休み時間!」
「癒しの時間は大事よねぇ〜」
瞬間、ガタガタと机を動かす音と「待ってました!」とばかりのソワソワした浮ついた雰囲気に早変わり。
席を立つ女子生徒がいないものの、ちらちらっと目がよく合う。
俺と里琉以外のクラスメイトは全員女子だし、男は数が少ないから自然と注目されるからだろう。
それにしても、休み時間に話しかけてくる女子はいないんだよなぁ。なんでだろ?
まあ、いつものことなので特に気にすることなく、俺は開放感で大きく伸びをする。
「授業終わったぁぁー。まだ1限目だけど」
「一季くん1限目お疲れ様っ」
くるっとこちらに身体を動かした里琉が笑みを向けてくれる。
それだけで癒される……って、いかんいかん!
俺はこの世界で男の娘に目覚める気はないのだ。
「お疲れ様、里琉。それに氷川もお疲れさん」
「……ええ。お疲れ様……」
隣の氷川を見れば何やら目頭に手を当てていた。なんか疲れてる?
「氷川? もしや、俺に教えるのにそんなに体力を使ったのか!」
「まあ、ある意味そうかもね……」
氷川は大きくため息を漏らした。
「まじかよ。じゃあ勉強教えてくれた礼に良かったらなんでもするぞ?」
俺としては当然とことを言ったつもりが、氷川は眉間にシワを寄せた。
「なんでもって、貴方ねぇ……。そろそろ危機感を持たないとんでもないことになるわよ?」
「とんでもないこと?」
とんでもないこととはなんだろうか?
分からなくて頭を捻る。
ここは貞操逆転世界で男女比1:10だが、案外普通だ。
とはいえ、クラスの女子含め、校内の女子は皆可愛いし、あちらから声を掛けてくれる。
元の世界では、あり得ないことだった。
でもそれは、数少ない男だからという理由だろうし、モテているのではなく、男だから言い寄ってくれているのだろう。
それに俺は別にイケメンでもないし、告白やラブレター、女子に積極的に言い寄られた経験もない。
つまり俺は、危機感0でも平気っぽいのだ。
「つか、危機感を持ってと言うなら俺じゃなくて里琉なら納得だが」
氷川から里琉に視線を移せば、里琉はこてんと小首を傾げていた。
「なぁ、里琉。周りの女子か俺でもいいからちょっと笑ってくれないか?」
「えっ、一季くんがいい」
「お、おう。じゃあ俺にどうぞ」
即答されてちょっと驚くも、里琉がこほんっと咳をひと払いしたのを見て俺も氷川も注目し。
「一季くんいつもありがとうねっ」
里琉は一言添えて最後ににこっとと笑った。
すると、どうでしょう。
「里琉くんのエンジェルスマイル崇めちゃった……!」
「くそっ! ここの席からじゃ見えなかった……!」
「ああっ。スマホが内カメだったッ」
女子たちがざわつき始めました。
里琉がモテていることなんて一目瞭然。
「ほら、見ろ。これなら分かる」
「甘瀬くんはちゃんと危機感を持っているから大丈夫よ。問題は貴方。誰に対しても危機感がほぼない……むしろ、0でしょ?」
「おお、当たり前だろ。俺は別にモテてないが、女子たちとは仲良くなりたいからな」
俺の言葉に氷川はまた深いため息。
里琉まで苦笑いをしていた。
「ほんと、貴方は危機感がないというか、無自覚で鈍感で馬鹿、アホいうか……」
「えっ、なに悪口⁉︎」
「――でも、それが彼の良さでもあるから全否定が出来ないんだよね。まあ、一季にはボクがいるから大丈夫さ」
横から爽やかな声が入ってきた。
見れば、フッと微笑みを浮かべた彼方が教室に入ったところ。
「おお、彼方! 1限目お疲れー」
「うん、お疲れ様。一季が元気そうで何よりだよ」
彼方に向けてひらひらっと手を振れば、彼方は微笑みで返した。
「それと……」
彼方が俺から視線を外し、その切れ長の瞳は氷川に向けられた。
「やあ、氷川さん。今日も綺麗だね」
「佐宮さんこそ今日もカッコいいわよ」
彼方と氷川は見合う。
王子様系美少女の彼方とクール美人な氷川が言葉を交わすだけで絵になるな。
しかし2人とも笑みを浮かべているものの、穏やかな雰囲気ではなさそうなのは何故だろうか?
そんな彼方と氷川を交互に見ている時だった。
「あにぃ〜! 無事っすかー!」
場が明るくなるような活発な声が聞こえてきた。
小走りで教室に入ってきたのは、金髪のゆるっとしたボブに大きな瞳でいかにも元気っ子な美少女。
甘瀬
里琉の双子の妹で、彼女こそが里琉の同伴者である。
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