第9話 穏便に済ませるために嘘ついたけど、平気っぽい?
午前中の授業がすべて終わり、昼休みになった。
「じゃあ、行ってくるね、一季くん」
「いつもの場所を取っとくね〜」
里琉と千種は、いつものメンバーでお弁当を食べるために、空き教室を確保しに行ってくれた。
「ふぅ……」
その間、俺はトイレを済ませた。
さすがに男子トイレには同伴者はついてこない。
それに、昼休みになると、隣のクラスの彼方は女子に囲まれて、「一緒にお昼を過ごして‼︎」と迫られている頃だろう。
何せ彼方は、『王子様』と呼ばれるほどで、女子たちに圧倒的な人気を誇っている。
「やっぱり、イケメンと美女がモテるのは、どの世界でも変わらないよなぁ〜」
そんなことを呟きつつ、自動販売機で飲み物でも買おうと考えながら歩いていると……。
「……は、早く来いっ」
「……」
俺の前をキョロキョロと挙動不審な男子と、艶やかな水色のロングヘアを靡かせた女子――氷川が通り過ぎていった。
氷川は同伴者はしていないと言っていた。
なので、男子の付き添いをしている訳ではないだろう。
「なら、あの2人はどこに……って、ははーん。なるほどなぁ」
男女2人が弁当を持たずに、しかも人目を気にしてどこかへ向かう……。
この状況で、だいたい察しがついた。
そして、氷川が男子を呼び出したのではなく、男子側が氷川に何かを伝えたいのだろう。
彼方が女子に人気なのに対して、氷川は男子に人気があると聞いたことがある。
理由はよくわからないが……冷静沈着で大人びた雰囲気を醸し出す氷川の外見だけでも目を惹くのは確かだ。
「……ふむ、気になるな……」
そう思いながら、少し覗いてみることに。
2人は廊下の一番奥……行き止まりの場所で足を止めていた。
確かにそこなら、教室や移動中の生徒たちから目立たないだろう。
「って、やっぱりよくないよな。さっさと空き教室に行こうっ」
俺は頭をフルフルと振り、覗いていた顔を引っ込めた。
大事な話だから、人目のないところに移動してきたのだろう。
もしこれが告白なら、なおさらだ。
そう思って足を逆方向に進めようとしたときだった。
「――お前なら、俺の同伴者にしてやるよ」
思わず足が止まった。
これが……男子の告白の言葉だったのか。
いや、これは告白ではないな。
男子の話とは、氷川に自分の同伴者になってほしいということだった。
しかし、頼んでいる立場にもかかわらず、その言葉は何とも上から目線の物言いだ。
会話を聞き取りやすくするため、壁に身体を隠して顔だけ出して見ると、男子は腕を組んで仁王立ちしていた。
実に偉そうな態度だ。
でも、これは貞操逆転世界では割と普通の対応らしい。
男女比が1:10と男子の方が数が少ないため、男子は周囲から大切に育てられ、その自覚もある。
そうして甘やかされて育った結果、傲慢な態度を取るやつもいるとか。
今まさに見ている男子だな。
自分が特別だと思うのは構わないが……それが他人に対して、傲慢な態度になるのは違う気がする。
それに、男子は数が少ないだけで偉いわけじゃないと思うし……やっぱり変だよな。
てか、女子には優しくしろよ!
みんな可愛くていい子じゃん!
そんな煮え切らない感情に包まれていると……。
「――ごめんなさい」
氷川の冷え切った声が静かに響いた。
少し見えた表情も冷たいそのものだ。
「な、なんでだよっ」
「だって私、貴方のこと何も知らないわ」
横髪を耳にかけ、氷川は淡々と告げる。
「知らない人の同伴者なんてできるわけないでしょう? 貴方だってそうは思わない?」
「お、俺だってお前のことよく知らねぇよ! でもお前は、男子に媚びねぇし、ガツガツ攻めて来ないし、男に興味ないって聞くから……っ」
「何それ。他人から聞いた噂で私に同伴者を頼んでいるの? 自分の目で見た確かな素性が分からない方が危険じゃないかしら? 貴方、よほど危機感がないのね。……まあ、彼ほどじゃないけど」
最後の言葉はよく聞き取れなかったが、氷川の言葉から、同伴者の件は断るつもりであることが伺える。
男子もそれを察したらしく……。
「同伴者の話こ、断るのかよ! 俺から……男子から直々に頼んでいるんだぞ!」
氷川の冷淡な態度と同伴者の話を断られそうなこと……そして何より、自分の思うようにいかないのが気に食わないのか、男子は氷川を指差し、声を荒げた。
「女子っていうのは、い、いつもならこっちが頼んでなくてもグイグイ来るのに……!」
「あら、ごめんなさい。私はその『いつもの女子』とは違うので。それと、貴方がその『男子』という肩書きを好き勝手に振り回していることにも感心しないわね。それにその態度も……男子だからとか関係ないわ。そもそも貴方の今の態度は、人に物を頼む態度じゃないし、こちらとしても快く承諾できる訳がないじゃない。そんな人の同伴者をやりたいと思うわけがないわ。だから私は、貴方の同伴者を断らせてもらうわよ」
「くっ、せ、説教かよっ。女のくせに生意気な……!」
「あら、本音を言ったら悪いのかしら?」
氷川は男子の態度にも動じず、自分の意見を言い切った。
「お、お前なんかに同伴者を受けてもらわなくてもこっちには――」
その言葉はダメだ——
男子がそう言いそうになった時、俺は気づけば飛び出していた。
「な、なんだよお前!」
「俺? 俺は1年の更科一季だ。覚えなくても大丈夫だ。で、友達の氷川といつも一緒に弁当を食べてるから、呼びに来たんだ。見たところ、話も終わったみたいだし、行こうぜ、氷川」
「ええ、そうね」
氷川は俺に微笑みを浮かべ、こちらに歩み寄ってきた。
「お、おい! 話はまだ終わってないぞ! 俺の同伴者の話を断るなんて、どうかしてる……!」
氷川はため息をつきながら、再び男子を見やる。
しかし、氷川が何を言おうが、男子は上から目線の言葉を続けるだろうし、話は終わりそうにない。
だから俺は……氷川の肩を軽く叩いた。
「更科君……?」
「ここは俺に任せてくれないか?」
「お、お前には関係ないだろ!」
「いやぁ、実は関係あるんだ……」
俺は息を吐き、続ける。
まあ、ここからは……言うなればアドリブだからな。
「あー、同伴者の件なんだけど……実は、今度から氷川に俺の同伴者をやってもらうことになっているんだ。だから彼女は、君のせっかくの頼みを断るしかなかったんだ。これで納得してもらえないか?」
俺は刺激しないよう、穏やかな口調で言う。
俺の言葉に男子は一瞬、言葉を失ったが……やがて不機嫌そうに顔をしかめた。
「チッ、先に男がいるなら言えよ……」
彼はぶつぶつと文句を言いながら、不機嫌そうな顔で俺たちの横を通り過ぎていった。
「ふぅ、行ったか……随分と情熱的な勧誘だったな、氷川?」
「私からしたら、ただ一方的に好き勝手言われただけなんだけど。不快だったわ」
「そりゃご苦労さん」
「ええ、ありがとう。それにしても、さっきのは一応、内緒話だったのよ? それを物陰から聞いているなんて、貴方も趣味が悪いわねぇ?」
氷川が目を細めて咎めた。
「それについては……す、すまん! 一度は盗み聞きするのは悪いってその場を離れようと思ったんだけど、あの上から目線の物言いがどうしても気になって……本当にすまない!」
「別に謝らなくていいわよ。助かったし。ありがとう。でも、さっきの話……今度から私が更科君の同伴者をするなんて、初めて聞いたけど?」
「そりゃ、咄嗟についた嘘だからな」
しつこい男をどうにかする場面は、小説や漫画では「俺の彼女だから……」とか言って誤魔化すのが定番だけど……さすがに氷川に冷たい目で見られそうだから、ここでは同伴者って言葉を使った方が良いと思った。
「へぇ嘘……。そう。私は別に、貴方の同伴者ならやりたいのだけれど……」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもないわよ。早く行きましょう。お昼の時間が終わるわよ」
「おお、そうだな。急げっ」
早歩きになる。
「でもあの言葉……彼女が聞いていたら大変になっていたかもね……」
その間、氷川が何か呟いたような気もしたが……俺には関係ないだろうし、聞き返しはしなかった。
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