説教のが良かった

「でもこれ、持って帰って調べなきゃじゃないんですか?」

「そうですが、対策もなしに触るのはやめてください」


 対策があるのですか。

 そうですか。

 なら私怒られますね。


「この袋に入れていきます」


 そうアレンが取り出したのは、見た感じツルツル素材の巾着袋だった。


「巾着袋?」

「この袋は魔道具なので、入れたものが外に干渉できなくなります」

「へー。でも結局、袋にいれるとき触りますよね?」

「一欠片あればいいので、一番大きいのを袋を手袋の代わりにすれば……」


 説明の通りにあっという間に回収終了してしまった。


「なにか起こることを期待してたんすか?」


 しょんぼりする私をウォルターが慰めてきた。


「普通思うでしょ」

「思わないと思うっす」


 何もなく洞窟から出る。


「町に戻りますかぁ!!」


 なんだか疲れたよ。

 ん?でもちょっと待って。

 どうやって?


「回り道があればいいんですが、なかったら……」


 アレンががけを見上げる。


「マジか……」


 ここにきてのロッククライミング!!

 打ち身だらけだから、すでに歩くのもきつくなっている私にハードルが高くないか?

 てか、リアムはキツくないのか?


「ねぇ」


 こっそりリアムに聞いてみる。


「崖から落ちたとき怪我とかしてないんだよね?」

「あぁ。……まさかお前っ」

「違う、違う。打ち身はあるけど。リアムも一緒でしょ?」

「そうだな。で?」

「キツくないの?」

「……何故それを先に言わない」


 ん?私は聞いているだけなんですが。


「分隊長!!」


 ノー!!!

 質問をしただけだよ。

 話を大きくするんじゃない!!


「どうした?」


 ほら道を探していたアレンがこっちに来ちゃったじゃないか。


 いやいやいや。

 別に大したことでは……ってか、これ、また怒られるパターンじゃない?


 何てことをしてくれたんだと、リアムをみれば呆れた顔で見返してくる。


 ほら、自分で言えよ、って?

 また怒られるぞ、って。


 へ?そう言うこと?


「どうかしましたか?」


 今度は私に尋ねられる。

 顔をみて言うことができず視線が下をむく。


 自分の爪先に向かって話しているようなものだ。


「あっと、その。何て言うか……まぁ、さっき、崖から落ちたじゃないですか。で、怪我は、してないんですけど……だけど、えーっと……ちょっ、休憩がしたい、と言うか、なんというか……」


 最後のほうはだんだんと声が小さくなって、ゴニョゴニョゴニョとしか聞こえていないであろう。


 コートの裾をギュッと握っていると、頭をポンポンと叩かれる。


 そーっと顔をあげてみる。


「良くできました」


 アレンが角砂糖の上に粉砂糖を掛けて、それから蜂蜜を掛けたような、それはそれはあまーい笑顔で私の頭を撫でていた。

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