眠くなる成分が
アレンの笑顔をみて私は固まった。
なんか、だめだ。
なにがどうだめなのかは、わからないけど、とにかくだめだ。
小さい子じゃないのに頭を撫でるのも、人前でこんな笑顔を振り撒くのも恥ずかしい。
他人にやっているのでさえ恥ずかしいのに、自分にやられるなんて……
あぁ、消えてなくなりたい。
とにかく視線をそらす。
こういうときは自分が表情のでない人で良かったと思う。
本当ならニコッて笑い返せるといいなぁと思うのだけれど。
……無理だな。
「では、休憩しましょう」
はー。よかった。
あのままだったら口から砂糖が出てくるところだった。
糖分の取りすぎは体によくないからな。
一人でうんうんと頷いていると、隣からひょいとノアに覗き込まれる。
「なに?」
「いやぁ、レア中のレアなアレンの笑顔をみてもそれほどの反応がないアイナちゃんもレアキャラだなぁ、と思って」
「?」
「でも僕的には安心かな」
「何に対して……」
「あの顔をみて、恋に落ちないところ」
「鯉?」
「違うよ、恋!」
だから、何でもかんでも恋だの恋愛だの好きだのなんだのとくっつけていくのは、何故なのだろう。
「恋ねぇ……」
「そんな難しい顔する話をしてないよ?」
は?
私はいったいどんな顔をしていたのか。
わからん。
「なんで恥ずかしいじゃなくて、恋なの?」
「え?」
「え?」
二人で首をかしげていると、準備ができたと呼ばれる。
崖に出来た窪みがあり、そこで休憩となった。
さすがに雪が積もっていないといえ、地べたに直接座るのは寒いと焚き火も用意していた。
近づくとウォルターに話しかけられる。
「なに話してたんすか?」
「さぁ?」
「え?副長、話してましたよね?」
「もちろん。なんでそんなこと言うのさっ」
「……さぁ?」
だって、よくわかんなかったから。
焚き火を囲んで休憩。
こういうとき、マシュマロとか焼きたい。
「マシュマロ?」
「白くてふわふわで甘いお菓子です」
普通に食べるより炙って食べるのが好きだな。
「マシュマロはないけど、これならあるよ」
ノアが小さな袋からコロン、と梅干しの種みたいなのを出してきた。
「種?」
「これ、リューンの実ですか?」
「あたり。はいどうぞ」
私の手のひらにリューンの実を乗せてくる。
どこからどう見ても梅干しの種だ。
「美味しいの?」
「疲労回復の効果があるよ」
へー。
ぽいっと口の中に放り込むが、特に味がしない。
「味がない」
「噛んでみてください」
噛むの?
がりっと噛み砕くとフワッと口のなかに優しい甘さが広がる。
「金平糖みたい……」
「コンペイトウ?」
「飴みたいな物です」
「へー。本当にいろんな食べ物があるんすねぇ」
焚き火にあたりながら、話をしているとなんだかホワホワとしてくる。
眠い……
雪山で寝たらいけないんだよー。
なのに、無性に眠たい。
「これね、眠くなる成分が入っているんだって。疲れている人が食べると人によっては眠くなるらしいよー」
そうノアが説明する言葉は私の耳には届いていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます