メーデー

「で、そのキラキラトゲトゲのボールことモヤッとボールを握りつぶしたから手を怪我した、と」


 執務室はブリザードが吹き荒れていていた。

 物理的には吹いていないが気分は雪山遭難中だった。


 応接セットに座る私。

 正面はアレン。


 めっちゃ怒っていらっしゃる……

 これは正座で怒られた方のが良いかもしれない……

 だらだらと冷や汗をかきながら、小さくなっていると。


「ものすごい怒ってるっす」

「僕ら巻き添えを食らう前にちょっと席をはずした方がいいかも」

「リアム……休みで良いなぁ」

「この場にいたら、休みだろうと関係ないだろ」

「ねぇ、そーっと出ていこうよ」


 ノアとウォルターとリアムの内緒話が聞こえてくる。

 おいていかないで~。


「聞いていますか?」

「はい、すみません」

「何度もいいますが、助けを求めましょう」


 でも、扉、開かなかったんでしょ?

 その台詞が口から出そうになって、グッと飲み込む。


 こういうときは茶々を入れると火に油だからな。

 シュンとして反省を全面に押し出した方が早く終わると相場が決まっているのだ。


「善処します」


 沈黙が訪れている。

 そーっと、顔をあげてみる。


「それはしない人の常套句ですよ」


 氷の帝王が降臨している。

 アレンにピシャリといわれる。


 ひぇっ。


「まぁまぁ、話してくれたんだし、気を付けるって言っているんだから、許してあげなよ」


 ナイスノア!!


「……次回はありませんよ」


 はい、もちろんです。

 コクコクと首をふる。


 ふー、危なかった。


「話を進めますが、昔話の通りだったと?」

「黒い魔法使いって言う昔話にでてくる不審者です。ちなみに不安の種という題名ではありませんでした」


 後半の言葉はウォルターに向かって話しているよ。


「あれ?違ったすか?」

「違ったすよ」


 探すのが大変だったんだからな。

 みんな内容は知っているだろうけど、購入した本を机の上にだし、該当のページを広げる。


「でも、昔話でしょう?」


 本を覗き込みながら、ノアが尋ねる。


「それが、そうでもないらしいのです」


 そう言って本のページを目次まで戻す。


「目次をみたときにあれって思ったんです。題の始めが『○』と『●』があるんです」


 トントンと指で目次のマークを叩く。


「あれ?本当だ」

「なにが違うんすか?」

「私よりみんなのがすぐわかるんじゃないですか?」

「「「え?」」」


 私が気付いたんだから、こっちの世界の歴が長い人のがわかるだろ。


「あっ」

「なるほど」

「たしかに」


 ほぼ同時に三人が声をあげる。


「え?なんすか?みんな、わかったんすか?なに?どゆこと?」


 ウォルターが一人、意味がわからず慌てている。


 うん。

 君は期待通だったよ。

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