【閑話】恋ばな
ある日、いつぞやのレティシアのように扉をばーんと開けて、凛が登場した。
「愛奈、お茶しましょ!!」
突然やってきて何を言っているのだろうか、この人は。
「さあ、行くわよ」
ぐいぐいと引っ張られて、凛の部屋まで連れていかれる。
王宮内にある凛の部屋は広かった。
侍女さんが早速ケーキとお茶を用意してくれる。
お茶、といっても、私のはホットミルクにしてもらった。
「で?」
「なにが?」
「急にお茶しようなんて、なんか用があったんじゃないの?」
「えー、用がなきゃ誘っちゃダメなの?」
「ダメではないけど……」
今までの経験上、用がなければ呼ばれないし、呼ばれても長居はしないものだったから、前フリなしで本題をと思ってしまう。
「あのさ、私、聞きたかったのよ!!」
「何を?」
前フリなしで本題へと移ったのだが嫌な予感しかしない。
「好きな人いないの?」
「はい?」
「だから、好きな人。ってか、向こうの世界でいなかったの?好きな人、もしくは初恋の人とか」
「いない」
「即答?駄目よ、ほらもっとよく考えて!」
言われてしまったので、腕を組んで考えてみる。
ここ最近は駄目だな。思い出すなら、それより前か。
幼稚園と低学年の時かだな……
低学年の時は、よく物を取られて「ここまでおいで~」みたいな嫌がらせをされていたな。
足が遅いから追い付けなくていつも泣きながら追いかけていたっけ。
幼稚園の記憶なんて、近所の神社の崖から落ちて縫うほどの大怪我したとか、熱出して園庭のど真ん中でひっくり返って肺炎で入院したとか、冬にひたすら室内で一人で指編みをしていたとか、卒園式前日にブランコから落ちて顔に青アザ作って出席した記憶しかないぞ。
あれだ。
一個上の学年と一個下の学年は男女仲がよかったけど、うちらの学年、険悪だったからな。
男子と仲良く遊ぶなんてのがそれほどなかったんだ。
どれだけ一生懸命思い出したって、良いエピソードがなにもない。
つまり、初恋だの好きな人のエピソードなどは、
「ないな」
「なんでよ!!あの子、格好いいとか優しくしてもらったなーとかないの?」
「ない」
「かびーん」
かびーんって……
なんで他人の恋愛事情でショックを受けるんだ?
「じゃあさ、こっちに来てからは?」
こっちに来てから?
こっちの世界で出会った人を思い浮かべてみる。
……
…………
「そもそも、恋とは?」
何故か絶望的な顔をする凛。
この言葉は辞書で引いてもわかんなそうだから聞いてんのに。
「ずっと一緒にいたいとか、一緒にいるとドキドキするとか、落ち着く人とかいないの?」
そう言われて考えてみようとしたとたん。
「わかったわ!!まず、知識が足りていないのよ。」
お前に言われたくないよ。
質問しといて思考を中断させるなよ。
「恋愛小説を読んだり、話を聞いたりして知識を増やさなきゃ駄目なのよ」
「へー」
「だから、私が話をしてあげるわ!!」
そうして興味のない、恋ばなを延々と聞かされる羽目となった。
ただ、惚気たかっただけなのではないかと思ったが、ケーキを突っつきながら「はい、はい」と相づちを打つのだった。
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