子犬のワルツ

 返事は直ぐにきた。

「事件前、そういった夢は見なかった。しかし黒いフードの人とは会った」だった。


「うーん。さっぱりわからない」


 ちょっと遅めのお昼ごはんを食堂で食べ終わり、デザートの甘い茶碗蒸しプリンもどき(生暖かくてすが通っている)をつつきながら頭を抱える。


「だいたい、夢でも夢じゃなくても黒いフードの不審者にあったら、性格が一時的に変わるなんて意味わからん」


 ぶつくさ言いながらスプーンでプリンもどきをつつく。

 さすが、プリンもどき。

 ツンツンしても微動だにしない。


「手詰まりっすかねぇ」


 今日のお昼のお相手はウォルター。

 閃きはやってこなさそうである。


「なにうんうんうなってんだよ、ボギー」


 突然声をかけてきたのは、食堂の料理人見習い、マルだった。


「なんだ、仔犬マルか。」

「俺の名前は、マルチーズだ!!変な意味をつけるな!!」


 別に変な意味は付けてない。真理だ。

 それにきちんと呼んで欲しければ、私のことだって座敷わらしと呼ぶんじゃない。


「な、悩みがあるなら、聞いてやるぜ。俺だって相談に乗ってやらないこともないけど?」

「えー」


 私のなかでウォルターより、ランクが下に認定されているマルなので役に立つとは思っていない。

 そしてなぜ偉そうなんだろうか。

 それにマルは何故かそっぽを向いて話をする。

 他の人とは目を合わせているのに私のときだけ顔ごと余所見である。

 嫌いなら話しかけてこなきゃいいのに。

 まあ、私だって目を合わせるの苦手になって合ってもすぐ反らしてるから、人のこと言えない。


 でもあからさますぎるので、目が合うと石にされるとでも思っているのかもしれない。

 しかし邪険にするのも可哀想なので話を振ってみる。


「黒いフードの不審者って知ってる?夢に出てくる場合もあるらしくて、キラキラしたものを取ってくらしいんだけど」

「はぁ?なんだそれ」

「だよねー。そんな断片的な話で……」

「わかるわけ……ちょっと待てよ。黒いフード、キラキラしたもの、取っていく……聞き覚えがあるぞ?」

「ほんとに?!」

「えーっと……あれだ!!不安の種!!」

「あっあれか!!」


 ウォルターとマルが指を指しあって顔を見合わせる。


 不安の種って、あれだろ?

 怖い漫画で数ページの短編がいっぱい入ってるやつで、オチがないから余計に怖いやつ。


「全然ちげーよ」

「お嬢の読書遍歴って独特っすよね」

「そんなことない」

「だって、聖女様に言ってもわからないだろ。そのネタ」


 ぐぬぬ。


「あの人は、キラキラの恋愛ものが好きそうっすからね~」

「たぶん違う」

「なんだよ。いくら自分と趣味が違うからって……」

「だから違うの。たぶん凜は本は読まない」


 恋愛ものが好きかもしれないが、本は読まないだろう。

 ドラマとかは好きそうだけど。


「「あっ」」


 二人とも私に言われて納得した顔をする。


 昨日見たドラマの話だって、好きな小説の話だって、思い返せばクラスメートと交流があった頃、話が合ったことはない。


 皆が恋愛ドラマを見ているその時間、私はサスペンスを見てるから。

 皆が主人公と彼のする違いにドキドキしながらページをめくっている時は、私はだれが犯人がなんだろうとドキドキしながらページをめくっているから。


 話が合わないのは当たり前だった。

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