一矢報いたい

 こういったときは、「すみにいろ」とかいって邪険にされるのがセオリーだろうが、今回はそうはならなかった。


 なんていったって、相手の狙いは私だからね。


 私をめがけて攻撃してくるので、的になるしかない。囮になりアレンが魔法を叩き込んでいく。


 闇落ちが気をそらしてアレンに向かって行ったときには、私が魔法を叩き込む。


 しかし、なかなか攻撃は通らず、それなのに相手の勢いは衰えていかない。


 小さな傷が積み重なっていく。

 体力が元々あまりないのだからキツイ。


 段々避けれなくなっていく。


 何かいい考えはないのか。

 そこでふと思いつく。


 これ、魔法じゃなくて、物理攻撃のほうが効くんじゃない?


 考えながら無意識にスカートのポケットに手をいれる。


 は当たり前のように私のポケットの中に存在していた。


 元の世界で何かがあったときに使おうと、ホームセンターで買ったちょっと大きめのカッターナイフ。

 セーラー服のポケットに毎日入っていたけど一度も使わなかった。

 しかし、習慣とは恐ろしいもので、こちらにきてからもずっとポケットに入れていたのだ。


 ポケットに入っているだけで、手をいれて入っているのを確認するだけで、使われることはなかったそれをゆっくりと取り出す。


 カチカチという音と共に適当な長さの刃をだす。

 そしてそのまま相手に向かって走り出す。

 ちょうど相手は背中を向けているので、行くならこのタイミングしかない。


 殺される前に殺そう。

 一方的に殺られるのは気にくわない。

 殺れなくても傷ぐらい負わせたい。


 そのまま刺せるかと思ったが、気づかれたのか振り返ってくる。

 相手との距離はまだあるが、ここまできて引き下がるわけにはいかない。


 闇落ちが長い爪を振り、それが左腕に当たり血が舞う。


 痛い。

 それでも、私は前に進む。

 物理的な痛みは我慢すればいい。

 それに自分にも赤い血が流れているという安心感が得られるから、気にしない。


 上手いこと間合いに入り、脇腹にカッターナイフを突きさす。


 そして、少しでもダメージを与えるために左右にグリグリと捻る。


 傷口からは黒い血がぽたぽたと滴り落ちる。

 もう少し傷を広げようとしたとき、闇落ちが腕を振り回し私はそのまま吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされた時に引き抜いたカッターは、私とは違う方向に飛んでいく。


「アイナっ!!」


 アレンの声を聞きながら、ゴロゴロと転がる。

 体のあちこちが痛い。


 勢いが止まり、痛みに顔をしかめながら起き上がろうとすると、何故かアレンが剣を持っている姿が目にはいる。


 さっきまで持ってなかったよね?


 疑問を浮かべている間に、アレンは間合いを詰めて私が刺した傷に薄青色の剣を刺し、そのまま横にスライドさせる。


「ギァァァァア」


 闇落ちは耳に突き刺さるような叫び声を上げ、その場に崩れ落ちる。


 黒い血溜まりの中に倒れ込むが、まだ息があるようだった。


 アレンはそのまま闇落ちの胸にもう一度剣を突き立てた。

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