あなたはだぁれ?

 しかし、すぐ私が立っている場所は邪魔だということに気づく。

 店の前からはずれているものの通り道なのだ。

 少しずつずれていき、端っこに落ち着く。


 人の流れを見ながらジュースを飲んでいると路地からぬっと手が延びてきて私の腕を掴んだ。


 え、なに?


 びっくりしている間にあっという間に路地へ引き込まれる。

「それ」は、ぐいぐいと腕を引き、奥へ、奥へと連れ込まれる。

 抵抗しようにも「それ」に力で勝てる訳がなくずるずると引っ張られていく。


 そして、行き止まりの少し開けた場所まで引っ張られていった。

 そこまできて、思いきり腕を振り払うと今度はあっさりと手が離れていく。


「お前のせいで……」


 なんだ?こいつ。

 まじまじと「それ」をみる。

 生地の良い服を着ていることから、身分のそれなりな人なのだろう。

 しかし、おかしな事に「それ」の周りには黒い煙りのような、靄のような物が纏わりついていた。


「俺を覚えているか?」


 ん?なんだ?

 言われてみれば、こいつ見覚えがあるような、ないような?


 顔を覚えるのが苦手で、顔と名前が一致するまでに時間のかかる私がパッと思い付く訳がなく。


「すみません。どちら様でしょう?」

「俺を、覚えて、いない?お前のせいで……」

「?」


 誰だかわかんないのに話が進むわけがない。


「俺は、あのときに、お前のせいで、騎士団をクビになったんだ!!」


 どの時?私に関わってクビなる出来事。

 蘇る記憶。

 あのときか。斬り殺されるかと思ったときにあの隣にいて止めに入った人。

 でも、あれはそっちから絡んで来たんじゃん。


「俺は止めたんだ。なのにクビなった。お前のせいで!!」


 その瞬間、黒い靄がぶわっと量を増す。


 何が起こったのかよくわからないが、なんだかこの状況がまずい事はわかる。


「それ」がぶつぶつと「お前のせいで」と言うたびに煙りが増えていく。


 どうする?

 これがゲームならコマンドが並んでいるだろう。


「物理的攻撃を加える」

「説得を試みる」

「もう少し様子を見る」


 みたいな。


 ゲームだったら、失敗してゲームオーバーになってもコンテニューできるが、これは失敗したら命はないかもしれない。

 こんなよくわからんやつにこんな裏路地で殺されるのはごめんである。


 慎重に、でも素早く次の行動を決めなければ。


 説得は無理だろう。

 この人、私のこと恨んでるみたいだし、神経を逆撫でするのは得策ではない。

 様子を見る?これ以上見てどうする。

 多分死に向かってくだけだろ。


 やっぱり。自分の身は自分で守らなきゃだめだよね。

 それで失敗して死んだらそれはそれ。

 何もしないよりはマシだろう。


 だからと言って、物理的攻撃をもろに入れたら火に油なのは目に見えている。


 とりあえず、この靄をどうにかできるかやってみよう。


 風魔法で靄を飛ばせるかやってみることにした。

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