実食
さすがに言い出しっぺだから心配で私もキッチンへ移動をしようと思ったら、気づいたことが一つある。
このテーブルセット、規格がこちらの世界の人基準だから、高めに作ってあるようだ。
そのためか、足が一回スカッとなる。
自分の経験から、これくらいかなと予想をして足を下ろすのに付かない……
くっ……まさか机と椅子にまで「お前、小さいな(笑)」とバカにされようとは。
なんとか椅子から降り、キッチンへ移動をする。
因みに私の心配とは、料理が出来上がるかどうかではなく、私の説明が伝わったかどうかと私の発案したものが食べられる程度のものが出来るかどうかの心配である。
出来上がってから「このレシピ、使いものにならないじゃないか」とか、「材料が無駄になったじゃないか」とか言われたくないから。
キッチンへ移動すると、ボールに薄く切った牛肉が入れられていた。
ウォルターがそこにタレを入れ、揉み込んでいく。
そして、ソラが出来上がったら、温めたフライパンで焼いていく。
フライパンに入れた瞬間にいい匂いが部屋中に広がる。
あ、いまのところいい感じか?
美味しそうな匂いがするし、大丈夫そう、かな?
隣で様子を見ているレティシアもリアムも鼻をひくひくさせている。
出来上がったものを一口分、小皿に入れたソラが無言で私にずいっと出してくる。
……毒味をしろということか?
しかも、わくわくした顔をして、皆が見てくる。
そんなに私が『グハッ』って血を吐くのが楽しみなのか……
よし。女は度胸だ。
もし、死んだら後は頼んだ……
はむ。モグモグ。
うん、普通に美味しい。
ちょっとピリ辛で、でもそのなかにフルーツの甘味もある。
白飯が好きな人はご飯が進むだろうな。
別に私はご飯が好きな訳ではないけど。
なんだかちょっと視線がいたい。
「美味しい?」
何故かニコニコとしている、レティシアに尋ねられる。
「……美味しいです」
なんだろう、このやり取り。
デートで彼女が物を食べている時に、嬉しそうに眺めている彼氏みたいな構図?
経験したことないけど。
ウォルターが「美味しい」と聞いた瞬間に茶碗にご飯をよそい、お肉をのせている。
いつになく、機敏だな。
そしてソラがそれに便乗する。
でも待って。
私基準で「美味しい」だけど、皆様のお口に合うかどうかわかんないじゃん。
「ちょっと待っ」
止めたとしても何て言えばいいのかわからないけど、止めようとした。
「した」と過去形なのは、私が言った時にはもう遅く、ウォルターが口に頬張っていたから。
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