事件現場からの逃走

 ここでメソメソ泣いているのは迷惑になる、それに何時までもここでへたり込んでいては恥ずかしい。

 思うのはそんなことばかり。


 よし、移動しよう。

 決めてからの行動は早いほうがいい。

 私の良いところは、切り替えが早いところ。

 泣いた後でもそのまま予定の行動をとることができるよ。


 気合を入れて立ち上がる。

 そのまま図書室に向かって歩き出そうとしたところ、リアムに腕を捕まれ止められた。


「何処に行こうとしてる!」

「……図書室」


 当たり前のようにそう答えた瞬間、何故か乱暴に腕を引っ張られる。


 バランスを崩しながらも、何とか踏みとどまりリアムを見上げる。


「…?」

「……なに考えてるんだ?こんなときに……あぁもう。一度戻りますよ」

「……なんで?」

「なんでって……今、自分がどんな顔をしているか分かってないでしょう!!」


 変な顔って言いたいわけ?

 失礼な、元々こんな顔だよ。


 でも、腕を振り払うのも、自分で何かを考えて歩くのもめんどくさい。

 本音を言えば、足を動かすのも億劫に感じられている。

 引っ張られたまま、来た道を帰っていく。


 部屋に戻ると侍女さんたちが驚いた顔をした後に、慌てて動き出す。

 そして、問答無用にソファーに座らされる。


 私は、椅子の上で体育座りをするのが好きで、よくそして膝に本を置いて読んだりする。


 いつもなら他人がいる所でそんな行儀の悪い事はしない。

 でも、たまにはいいだろう。


 ソファーの上で体育座りをして、膝を抱えておでこを付ける。


 ……私、そんなに変な顔してる?

 地味に傷付くんですが。

 誰にも顔が見られていないと思うと何故か急に涙が出てきた。

 声を上げずに静かに涙で袖を濡らす。


 相変わらず、自分の感情が分からない。

 この涙は何の涙?


 かたり、と目の前のテーブルに何かを置かれた音にチラリと視線を上げれば、湯気を立ち上のぼらせるティーカップが置かれていた。


「ホットミルクです」


 飲めますか?と視線で問われ、「ありがとうございます」と意味を込めて頷き、直ぐ下を向く。


 人前で泣くなんて久しぶりすぎて、見られるのが恥ずかしい。

 そのまましばらく動かないでいると、ノックの音がする。

 いつの間にかいなくなっていたリアムが帰ってきたのかと思ったが、


「失礼します」


 ん?リアムの声じゃない。誰だ?


 緩慢な動きで顔をあげるとそこには、リアムとアレン、そしてはじめましてな筋肉マッチョなイケオジが並んでいた。

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