sideリアム 2

 結果、やはり少女への風当たりが強くなり、我が班が間に入ることに相成った。


 紹介された彼女は、特に何も感じないをモットーに生きているような印象だった。


 特に自分のおかれている状況を把握しているにも関わらず、「特に気にしていません」等とサラリと抜かす。


 なんで気にしないんだ!なんで何も言わないんだ!!

 自分の性格を棚に上げ、そう言って気にする様子が本当にない彼女にイライラする。


 しかも、護衛を付ける話をすると明らかに違う結論を思い浮かべている反応をする。

 こちらは、少女の身を案じているのに自分を卑下した結論を出しているのだろう。


 護衛に付くのは決定事項なので、俺の考えがどんなものでも相手がどんな考えをしていても仕事だから仕方がない。

 一緒に行動するようになってもやはり、俺の考えは変わらなかった。


 基本的な礼儀など、常識的なことはしっかりしていた。

 しかし、彼女自身の自己評価がズレている感が否めない。


 しかも情報交換の結果、ちょっと目を離したすきにいろいろとやられてるらしい。

 たちが悪いのが本人が自己申告をしないのだ。


 そしてある日、事件が起こった。

 いつものように護衛につき、今日は図書室に行くと出掛けることになった。


 一歩後ろにつき歩いていくと、前から第一のやつらがきた。


 ちっ。面倒にならなければいいがな。

 なんて思ってはみたものの事は最悪の展開を向かえた。


 ぶつかられて、足を引っ掛けられたにも関わらず、何故か動くなと目で訴えてくる。

 しかも、本人は暢気なことを考えているのだろう。危機感が全くない。


 いちゃもんを付けられて流石に自分の仕事をしなくては、と前にでる。


 ……売り言葉に買い言葉で喧嘩腰になってしまう。

 そして、一人がにやにや笑いながら、剣を構える。


 流石に緊急時以外の抜刀は規律違反だ。

 だからといってこちらも抜くかどうか、判断に迷う。

 こいつらが本気だったなら、斬り合うことも考えなければならない。

 でも、本気でないなら、事は大きくしたくない。

 様々なシチュエーションが脳裏を駆け巡る。

 そんな俺の思考を余所に、後ろから冷たい声がする。


「殺してくれるんだ」


 まるで冷たい刃物を首筋に突きつけられたかのような錯覚に陥り、恐怖する。

 しかも、「殺してくれるんでしょう?」と微笑みながら、自分から剣先に近づいていく。


 第一のやつらも同じような恐怖を感じたのか慌ててその場を去っていく。

 出来ることなら俺だってこの場から逃げ出したい。


 明らかに様子のおかしい狂ったやつだろ。

 あの瞬間に笑うやつなんかいないだろ。

 次はどんな行動をするのか、自分にも何かされるんじゃないかと思っていると、彼女は、ペタン、とその場に座り込む。


 座り込んだまま小刻みに震える体を抱きながら、静かに泣いていた。


 その瞬間、自分の勘違いに気づいた。

 元の世界は平和だったと聞いた。

 帯刀している人はいないし、死と隣り合わせで生きていない。

 その世界で生きていた子どもが、たぶん生まれてはじめて、本気ではなかったのかも知れないが、殺されそうになったのだ。


 怖くないはずがない。

 だったらなんであんな行動してんだよ。

 俺の後ろに静かに隠れてやり過ごせば良かったじゃないか。

 他にも穏便に済ませる方法はいくらでもあっただろ。


 考えれば考えるほどイライラが募っていく。


 しかし、一番の怒りは彼女にこんな行動をさせてしまったこと、行動を止められなかったこと、守れなかったことだった。


 なんのために自分が護衛についていたんだ。


 そして、その彼女の行動を『怖い』と思って、自分も何かされるんじゃないかと思ってしまったことが許せなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る