嵐の前の静けさ

 結局断ることはできず、護衛がつくことになった。

 もしここで出ていきます、とか死にましたとかなったら、迷惑がかかると思うと動けなかった。


 何だかんだ日替わりでアレンさんの班の人が護衛にきた。

 部屋に引きこもっているので、いらなくないかと思ったが、何故か常にいる。

 やっぱり監視がメイン?いろいろやらかさないようにって。


 一つ気づいたことは、たまに部屋を出ても誰かが一緒にいると悪口はおおっぴらには言われない。

 当たり前なんだけど忘れてたよ。

 あっちでは、大体一人で行動して言われたい放題だったから。


 その中で、アレンさんたちの班の人に一つ、お願いをすることにした。


「私の方のが年下だから、様付けも敬語も要りません」と。


 偉くもないのに敬語を使われるとかおかしいし、相手だって嫌だろう、と。


 それに対する反応はさまざまだった。


 アレンさんは、「では、アイナとお呼びしてもよろしいですか?敬語は……出来ればこのままがいいです。私のことも呼びすてにしてください。敬語もいりません」だった。


 いや、年上にタメ口敬語ってハードルが高い。

 しかも、偉い人じゃん。「慣れてきたら、そのうち……」と言葉を濁しておいた。


 ノアさんはと言うと元からタメ口だった。

 様付けだったのでそれを伝えると何故か全力笑顔でちゃん付け希望をしてきたのだった。


 久々のちゃん付けで恥ずかしい。

 頼んでいる方なので文句は言えない。


 で、ウォルターは、「無理っす。」と断られた。

 呼び方だけでも何とかと粘った結果、謎の「お嬢」呼びが決定してしまう。


 これなら粘らなければ良かった。ちゃん付け以上に恥ずかしいやつ。


 いや、あだ名だと思えば……


 思い出すあだ名は悪意に満ちたものばかりだったので、もしかしてこいつも私に嫌がらせがしたいのかと思い当たる。


 ……こいつの場合、能天気すぎてそれはないな。


 上二人は流石にさん付けだか、こいつはウォルターで十分だろう。


 最後にリアム。

 無口で余り話さない人だが、敬語でしかも様付け。


 何を言ってもこのスタイルを崩さないらしい。


 しかし、何回か顔を会わせているうちに気づいた。


 悪態をつくときは、敬語じゃない。

 当たり前か。


 ま、いいや。


 そんなこんなで、私にしては頑張ってコミュニケーションを取っていた。

 自分の身体が丈夫すぎて、緊張したり、人見知りしたりとか負荷がかかっても、胃が痛いなど体に不調はでない。

 寝れないのも、ご飯が食べられないのも、トイレで戻すのも、動きが鈍いのも、全部私の日常だから、不調ではない。


 心理的には、誰かと行動することで自分が恥ずかしいとか死にたい、消えたい、つらいとかはあるが、感情を動かすことにもエネルギーがいるので基本的にはほぼ凪いでいる。



 それに、それほどたいしたことをされることもなく、日々が過ぎていく。

 やられたことと言えば、廊下や図書室などで足を引っかけられたり、押されたりと、こどもか?思うことばかりだった。


 しかも、やり方がうまい!!

 そうだよ、こういった風に然り気無くやったり、バレない工作をしながらやらないと!

 行き当たりばったりでやるのだって、瞬時にどうすればいいか考える力が必要だよ!すぐに言い訳を思いついたりね!


 ちょっとした感動を覚えながら、このまま何もなく過ぎていくのかと思い始めた頃、事件は起こったのだった。

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