sideアレン 1
「分隊長ぉー。そんな怒んなくてもいいじゃないっすかー」
俺のとなりで情けない声をあげるウォルターをちらりと見てひっそりとため息をつく。
こいつが重要書類にお茶をひっくり返したために、お詫び行脚をし、もう一度作り直して書類を提出しにいったのだ。
とりあえず無事に提出がすみ、渡り廊下を話ながら歩いて行く。
「仕事を増やすな」
「でもマジ吃驚でしたっす。団長だってあんなに怒んなくてもいいのに……」
「それは、お前の態度が緩いからだろ」
「えー。そんなことないっすよ。近年希に見る真剣さだったっすよ?」
ふざけているのか、こいつは。
付き合っていられない。
もう一度ため息をつき、視線を庭園に向ける。
ん?
「あれ?あの子、召喚された子っすよね?」
足を止めた俺に気づき、隣にウォルターがやってくる。
園庭を進んでいくのは、最近異世界から召喚された女の子だった。
少し遠かったが、黒髪の子は珍しいため、直ぐに思いあたった。
「何してんすかね?」
「さぁ?」
さして興味もなかったが暫く眺めていると、立ち止まったかと思うと水魔法を発動した。
「水玉つくって遊んでる?」
真ん丸な水玉を作っては、目の前にプカプカと浮かべている。
なかなか真ん丸にならず、直ぐに壊れてしまう。
その後も同じことを繰り返している。
「何してんすかね?」
「さぁ?」
先程と同じやり取りをして、進みだそうとした瞬間。
少女は、違う行動をしたのが、視界の端に映り、もう一度視線を戻す。
水玉を空に浮かべて割ったのだ。
その瞬間、水飛沫に光が当たり一瞬だけ虹が出る。
「お、虹だ!!」
ウォルターが子どもみたいな声を上げる。
作った本人は、どんな顔をしているのかと見れば、小さくだか楽しそうに笑っていた。
………聞いていた話と随分違うな。
感情のない人形だとか存在の薄い暗い子だとか言われていたはずだが。
笑った顔は年相応な無邪気な顔だった。
「え、笑った?」
ウォルターも直ぐに気づき、噂と違うことに驚いたようすだった。
しかし、直ぐに少女は、無表情に戻る。
まるで、笑ってはいけないかのように。
そこに誰かが近づいていく。
「ん?」
「え、あ、あの子も召喚された子っすよね。聖女様」
それをみた瞬間、俺は走り出していた。
「ちょっ、分隊長、どうしたんすか?」
あわてて後ろからウォルターも追いかけてくる。
「最近、聖女様の噂を聞いたことは?」
走りながら問えば直ぐに気づいたようだ。
「……侍女の入れ替わりが激しい、陰で陰湿な事をやってるって、もっぱらの噂っす」
そんな噂のある人が人気のないところにいる子に近づいていくなんて、悪い予感しかしない。
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