面倒事はごめんです

「何をなさっているのでしょうか」


 その冷ややかな声に対して、浜島さんが答える。


「わ、私は別になにも……」

「何もしていない訳はありませんよね?」

「この子が勝手に転んだだけよ!」

「そうですか。では、此方の方に聞いてみましょう」


 そしてくるりと私の方を向く。

 しかし、下を向いている私は気づかない。


「貴女は何をなさっていたのでしょうか」


 ん?私に向かって話しかけられてる?

 めんどくさそうなことにわざわざ首を突っ込んでくる人なんていないよね。

 これまでだって、何かあったときに首を突っ込んでくるのは、面白そうだから、とか笑い者にするため、仲裁に入ることで優越感に浸るためであって、心配しているからではなかった。


 だから、今回のこの人だって、きっと私を悪者にするために、私に惨めな思いをさせようと現れたにちがいない。


 そーっと視線をあげて、目の前にいる人をまじまじとみる。

 長身で亜麻色の髪、紺青色の瞳の騎士団の人が冷静に私を見下ろしていた。


 特に何も言わない方のがいいんだよね、こういった場合は。


 あれこれ話すのめんどうだし、疲れるし。

 私は適当にはぐらかすことにした。


「特に何も?」


 その瞬間、その場の気温がスッと下がった。


 え?なに?やっぱ、怒られるやつ?


「もう一度聞きます。貴女は何をなさっていたのでしょうか」


 その人は目を細めてもう一度同じ質問をする。

 しかも若干威圧されてる?

 これは正直に言わないといけないパターン、か?

 何か言ったら「言い訳するな」って言わないかな。


「魔法の練習?」

「で?」


 で?

 え、まだ聞くの?


「で、転んだ?」

「何故疑問なのでしょう」

「ほら、この子が勝手に転んだんじゃん。自分でそういってるし」

「貴女は黙っていてください。私はこの方と話しているんです」


 二人が言い争いを始めた。

 そっちで勝手に話を進めてくれていいのになぁ。

 なんて、他人事のように考えるのに。


「で、何をされたんです?」


 あれ、こっちに話が戻ってる。

 話すまで解放されないらしい。

 信じてもらえないのはわかっているけど、話せというならはなしてやろう。

 話したって話さなくったって、いつも結末は一緒だから。

 私が悪いと言われるだけだから。


 ほら、期待するだけ無駄だから。


「魔法の練習をしてるところに彼女がきた。押されて足を引っ掛けられて転んだ、です」


 久々に話した長文は、カスカスでちょっと震えていた。

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