心当たりが無さすぎて

 昔は(といっても、まだ十数年しか生きてないけど)、泣き虫だった。ことある毎に泣くような子供だった。


 泣いている時に返される反応は二種類ある。

『泣いてもなにもしてもらえない』と『泣けば何とかしてもらえる』だ。


 勿論、私は前者だった。

 そして後者の子だっているものだから、私から見れば不思議だった。

 なぜ、親身になって話を聞いてもらえたり、慰めてもらえたりするのだろうか。

 なぜ、私に対しては「何か心当たりは?」と聞かれるのだろう。


 だから、泣かなくなった。

 泣いたってどうにもならないから。


 そしてすぐ泣く子に対しても『どうせ、泣けば何とかしてもらえるって思っているんでしょう?』と思うようになった。


 そのうち私は感情のコントロールがうまくなった。

 うまくなったというより、スルーするのが上手になった。


 泣きたくなっても一瞬のうちに感情が冷めていく。

 いつからか、私の『泣きたい』はまるですれ違った他人のようだった。

 ただすれ違うだけ、興味はない。


 そのうち泣きたいと思うことも少なくなったし、泣くこともさらに少なくなった。



 今回も水溜まりに尻餅をつき、服が泥だらけになったとき、泣きたいとも思ったし、怒りだって覚えた。


 しかし、いつもの癖で感情を押さえようとするとすぐに涙も引っ込むし平坦な感情が戻ってくる。

 だから、とりあえず立ちあがり、そのまま何事もなかったかのように浜島さんの隣を通りすぎようとする。

 浜島さんがそれを止めるように立ちはだかる。


「何澄ました顔してんのよ!気持ち悪い!!」


 えー自分で仕掛けておいて意味わかんない。

 とりあえずめんどうだけど、何か反論しないとなーとぼんやり考えていると向こうから誰かが走ってくる。


 その人は、騎士団の服を着ていた。

 ちなみにこの国には、第一から第三の騎士団があるらしい。


 第一は、王族の護衛が中心、第二は王宮の護衛、第三は城下町と別れている。特別なことがあったときは、この限りではないらしい。


 見分け方は着ている制服の袖ラインが色違い。


 金ラインが第一、青ラインが第二、緑ラインか第三だ。


 その人は、青ラインが入った服を着ていた。


 そして、私たちの間に割り込むと


「何をなさっているのでしょうか。」


 と冷ややかな声が聞こえた。


 あぁ、「心当たりはない」と言っても信じてもらえないのたろう。

 だったら、黙っていた方が賢明だろうと自分の泥だらけな服を見下ろしながら考えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る