第38話

総攻撃を始めて間も無く、不死原本部長が本気を出したのか、何十体ものヴァンパイアが次々と倒された。


彼の圧倒的な力に、僕たちの攻撃はほとんど通じていないように見えた。


その光景を見たドラゴンが、心の中で僕に語りかけた。


「思った以上に強い。王よ。ここは私たちに任せて、一時退避してください」


ドラゴンは僕に取り込まれたため、僕の最強の相方となっていた。


彼の力と知識が、今まさに必要とされていた。


「でも、ドラゴン。君たちを置いていくことは…」僕は葛藤しながら言った。


彼らを犠牲にすることができないと感じていたのだ。


ドラゴンは優しく答えた。


「我々は王の一部、ここで役目を果たします。何度でも力を貸しますから。」


その言葉に、僕は深く頷いた。


ドラゴンと仲間たちの犠牲が無駄にならないように、僕は全力を尽くさなければならないと決意した。


「ありがとう、ドラゴン」と心の中で呟き、僕は素早く動き出した。


綾美のいる方へと全速力で駆けて行った。


彼女を守り、この戦いを終わらせるために、僕は全ての力を振り絞って前に進んだ。


僕が綾美のいるところに着くと、綾美はバーストと共に野口部長と戦っていた。


野口部長は綾美の持つ二本の殺鬼刀に苦戦しているようだった。


その光景に、僕は心の中で「良かった」と安堵した。


「綾美!」と僕は叫んだ。


綾美は僕の声に気づき、「俊也!」と応えた。


僕はすぐに指示を出した。


「バースト、君はドラゴンと共に戦ってくれ」


バーストは頷き、すぐさまドラゴンの元に向かった。


二人が協力すれば、きっと不死原本部長に対抗できるはずだ。


次に僕は、野口部長に向き直り、決意を込めて言った。


「野口部長、失礼します!」


そして、全力で触手を使い、彼を押し飛ばした。


野口部長は遠くへ飛ばされ、壁にぶつかり、倒れ込んだ。


その瞬間、僕は一瞬の勝利を感じた。


「行こう!」と僕は綾美に言い、彼女の手を取った。


彼女の手の温かさが、僕にさらなる勇気を与えてくれた。


これからの戦いに向けて、共に立ち向かう覚悟を新たにした。


こうして僕らはなんとか不死原本部長と野口部長から逃げることが出来た。


全身に疲労が押し寄せる中で、無事に脱出できたことに一瞬の安堵を感じた。


しかし、その安堵も束の間だった。


僕らはシルバーウォールを襲撃した罪人として全国で指名手配されてしまった。


どこへ行っても、僕らの顔が貼り出されている。


追っ手の気配が絶え間なく続く中、緊張の日々が続いた。


僕と綾美は、レッドツリーを襲撃するハロウィンナイトまでなんとか身を隠さないといけない。


次のハロウィンナイトで奴らは僕の妹を吸血人として覚醒させ、自分たちの仲間にしようとするはずだ。


その運命を変えるためには、僕たちが無事にその日まで生き延び、準備を整える必要があった。


僕と綾美の逃亡生活が始まった。


人目を避け、夜の闇に紛れて移動し、危険を避けながらも目的地を目指す。


どこへ行っても安心はできないが、希望を捨てるわけにはいかない。


妹を救うため、そしてレッドツリーを倒すため、僕たちは全力でこの過酷な運命に立ち向かうことを誓った。


僕はこの逃亡生活の中でも鍛錬を怠らなかった。


昼間は隠れ家で休息を取り、夜はヴァンパイアをハントし、自分の中に取り込むことで兵隊の数を増やしていった。


数ヶ月が過ぎる頃には、僕の召喚できる兵隊ヴァンパイアは五百名ほどになっていた。


レッドツリーもおおよそ五百名ほどの組織であると聞いている。


これで対等に戦えるはずだと自分に言い聞かせた。


綾美も僕と一緒にヴァンパイアたちと戦いながら、自分の実力を伸ばしていった。


僕が召喚するヴァンパイアとの戦闘練習を繰り返すことで、彼女の技術と力は日々向上していった。


今となっては、綾美は野口部長と同等かそれ以上の実力を持つに至った。


ランクでいうと、AからSランクの間あたりだ。


彼女の成長ぶりに僕は感心し、心強さを感じていた。


「なんとか兵の数も揃って間に合いそうね」と綾美が微笑みながら言った。


彼女の声には、自信と決意が満ちていた。


僕と綾美は今、レッドツリーのアジトのある朱島に向かっている。


風が海から吹き、緊張感が高まる中で、僕たちはこの最後の戦いに向けて準備を整えた。


妹を救い出し、レッドツリーを壊滅させるために、全てを賭ける覚悟で進んでいった。


僕と綾美は水上バイクに乗り、朱島に向かっていた。


海面を切り裂くバイクの音が響き渡り、冷たい風が顔に当たってきた。


波しぶきが時折顔にかかり、塩の香りが漂う。


エンジンの轟音が、僕たちの緊張感を一層高めていた。


「もうすぐだね」と綾美が風に負けないように声を張り上げた。


その声には、期待と不安が入り混じっていた。


「うん」と僕は短く答えたが、心の中は激しい感情の渦に巻き込まれていた。


妹の紗夜のことが頭を離れない。彼女の笑顔、無邪気な声、そしてパンプキンマンに拐われたあの日の無力さが鮮明に蘇ってきた。


あの時、僕は何もできなかった。


紗夜を守ることができなかった自分の無力さに打ちひしがれ、ただ見守るしかなかった。


その光景が何度も夢に出てきて、僕を苦しめた。


しかし、今の僕は違う。ドラゴンの力を得て、多くのヴァンパイアを取り込み、ここまで来た。


「俊也、大丈夫よ。あなたは強くなっている。絶対、紗夜ちゃんを救えるわよ」と綾美が僕の腰をしっかり掴みながら励ました。


彼女の声は、まるで心の奥底から響いてくるようで、僕の不安を少しずつ和らげてくれた。


彼女の信頼と共に戦えることが、僕にとって大きな支えだった。


綾美がいることで、僕は自分の力を信じることができた。


彼女の励ましがなければ、ここまで来ることはできなかっただろう。


もう少しで朱島に到着する。


島の影が視界に入り、心拍が速くなる。


ここが僕たちの最後の戦いの舞台だ。


遠くに見える島のシルエットが、次第に大きくなっていく。


僕はハンドルを強く握り直した。


決意を胸に、全てを賭けて、この戦いに挑む覚悟を固めた。


妹を救い出し、レッドツリーを壊滅させるために、全力で立ち向かう。


その思いが、僕の体中に力をみなぎらせた。


綾美と共に、この戦いを必ず勝利に導くと心に誓い、朱島へと向かう水上バイクはさらにスピードを上げた。

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